ベスト👍 フィクション
『夜明けのすべて』
瀬尾まいこ 著
水鈴社 刊
2020年10月20日 発行
本体1,500円+税
266ページ
対象:中学生以上
明日がくるということ――
人間って、なんて厄介な生きものなのだろう。
不器用で、傷つきやすくて繊細で、いじらしい。そうかと思えば強情で、プライドが高くて、かわいげがない。
なんていろんな人がいるのだろう。ああ、本当に厄介。
だからこそわたしたちは対人関係を築くうえで、日々、成功と失敗を繰り返している。そうやって鍛錬することが対話力を培い、人間としての度量を、ひいては「自分」という個人を高めることにつながるというと傲慢に聞こえるだろうか。でも、その中でどうあがいても“うまく付き合えない人”というのが存在するのは事実だ。
性格や考え方が違っても気が合うということはよくある。でもそうではない。なんだろう、このモヤモヤ……。
そんな時、もしその原因が自分あるいは相手の抱える障害や病気のせいだったとしたら?
本当はうまくやる方法があるのかもしれない。
この作品は人と人との関わりを描くことに優れた才能を持つ作家・瀬尾まいこさんの新刊だ。
主人公はPMS(月経前症候群)を患う28歳の藤沢美沙と、パニック障害を持つ25歳の山添孝俊。それぞれに抱えるものが原因で前職を辞めざるをえなくなった2人は、栗田金属という小さな会社に再就職する。
仕事は的確にこなすのに生理前になると爆発するイライラを抑制できずに苦しむ美沙、薬の副作用でいつも覇気がなくぼんやりとしており、症状が出ることを恐れている山添。彼らがあることをきっかけに互いに抱えるものを知り少しずつ距離を縮めていくのだが、あまり詳しく話すと読書の楽しみがなくなってしまうのでここでは割愛。
2人のストレートなぶつかり合いや時にトンチンカンで漫才のような会話がこの仲間に混ざりたいと強烈に思うほど愉快で、見過ごせないなテーマでありながら何度も笑わせられる作品に仕上がっているのは見事。
それまで寂莫とした孤独に耐えていた2人の世界に少しずつ光がさす様子は、彼らが決して特別な存在なのではなく人間はそれぞれに量りえないおもりを携えて生きていることを感じさせてかけねなしにすばらしい本だ。
やっぱり人間は厄介だ。
そして、愛しいと思う。 (い)
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