クリーンヒット⚾ フィクション
『おじいちゃんとの最後の旅』
ウルフ・スタルク 作
キティ・クローザー 絵
菱木晃子 訳
徳間書店 刊
2020年9月30日 発行
本体1,700円+税
168ページ
対象:小学校中学年以上

最高に口の悪い、最高なおじいちゃんとの最後の旅

ぼくのおじいちゃんは、口が悪い。怪我をして病院に入院しているのだけれど、パパはおじいちゃんが口汚く罵るのを嫌がってお見舞いに行こうとしない。
おじいちゃんが大好きなぼくは、ある日、サッカーの練習に行くとうそをついて、おじいちゃんに会いに病院へ向かった。
そこでおじいちゃんとぼくは、ある計画を思いついた。パパやママ、看護師さんたちに内緒で、二人で病院を抜け出すのだ。行き先は、おじいちゃんが亡くなったおばあちゃんと暮らしていた家――。

小さな子どもとおじいちゃんがうまく周囲をあざむいて1泊の旅に出る。
おじいちゃんが愛するおばあちゃんと暮らした家に、あるものを取りに戻るために。
そう聞くとなんだか、センチメンタルな気分になってしまいそうだ。でもこの本はそうではない。スタルクのユーモラスな文章に、このとにかく口の悪いおじいちゃんが実にいいスパイスとなって物語を明るく盛り上げている。

パワフルで存在感あふれるおじいちゃんだが、あることをきっかけに美しい言葉を身につけるために訓練を始める。その様子がなんともいじらしい。
老いて頑固さが際立つ大人にこんなにも愛情を感じるものだろうか、と思い、ふと気づく。そうか、私はこの「ぼく」になりきっていたのだと。親という存在を飛び越えて信頼を寄せる誰か特別な人がいるということは、なんと尊いことか。

スタルクの最後の作品は、彼自身の思い出がいっぱい詰まった作品だということにも深くうなづける。 (い)

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