クリーンヒット⚾ フィクション
『ミカンの味』
チョ・ナムジュ 著
八島暁子 訳
朝日新聞出版 刊
2021年4月30日 発行
定価1,760円(税込)
247ページ
対象:中学生から

熟す前の、みずみずしい果実のような頃の記憶ーー

きっと誰しも通った”子どもでいることから抜け出そうともがいていた頃。
世界はせいぜい日常の周辺で、正義感で満ちあふれていた頃の記憶というものは、大人になって振り返るとちょっぴり気恥ずかしさを覚えるものです。
本書はそんな中学生の韓国人4人が織りなすまっすぐで、不器用で、ちょっと危うさをはらんだ友情物語です。

いろんなことが「ふつう」のソラン、恋愛経験が豊富で優等生のダユン、いつもなにかとけんか腰のヘイン、いじめられた過去を持つ心根の優しいウンジ。性格や家庭環境の異なる彼女たちは、中学校の映画部で親しくなった「いつも一緒にいる四人」。
ある日、高校受験を控える4人は思い出作りに済州島に旅行に出かけます。そこで交わした約束をめぐって問題が起こり……。
ほんのりとサスペンスの風味を含んだストーリーは4人それぞれを軸とした章によって展開されます。次第に明らかになる彼女たちの心の痛みや悩み、そして4人それぞれの関係性からは、日本と韓国という教育や文化の違いはあれど子どもが経験を重ねて成長していく様子がうかがえ、時に胸がきゅっと締め付けられます。
世界的な旋風を巻き起こした前作『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)よりも軽やかで等身大の彼女たちの姿は、日本の若い人たちの心にも共鳴することでしょう。ぜひ多くの人に手に取ってほしい作品です。

この夏、店内では本書を含んだ台湾・韓国の文学を紹介するYAフェアを開催中です。
併せてご覧ください。 (い)

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