ベスト👍 フィクション
『わたしのアメリカンドリーム』
ケリー・ヤン 作
田中奈津子 訳
講談社 刊
2022年1月 刊行
定価1,760円(税込)
303ページ
対象:小学校高学年から
「人生、勝ったり負けたりだ!」パパは大声で言った。
自由を求めて中国からアメリカへ移住をしてきたミアの家族。中国ではエンジニアをしていたママは、英語が自在に話せないこともあってこの国ではウェイトレスのような仕事しかなく、新聞でモーテル管理人募集の広告を見つけた一家は、カリフォルニア州アナハイムへと引っ越します。中国系のヤオさんが経営するモーテルに住み込みで働き始めた両親は、夜中でも構わず到着する宿泊客の世話と30室の掃除・洗濯で休む暇もありません。5年生(10歳)のミアはそんな両親を見かねて、放課後はモーテルのフロント係をかって出ますが、酔っ払いにからまれたりお客に怒鳴られたりと恐ろしく理不尽な目にあうこともしばしば。時に中国での暮らしや、兄弟のように育ったいとこたちのことを思って泣くこともありますが、「このまま永遠に貧乏人で、誰かに従うだけの人生を送るなんて嫌だ!」と思うミアは、持ち前の賢さと行動力と正義感で困難に立ち向かっていくのです。
「(いい従業員とは)立場をわきまえてるかどうかだよ」という雇い主ヤオさんは、同じ中国系のミアの両親を平気で搾取しますし、モーテルで起こった車の盗難事件では、警察の明らかな人種差別にも遭遇します。夢見たアメリカでの生活はちっともバラ色ではなく、弱い立場の人たち(自分や両親も)がいわれのない差別や不当な扱いを受ける現実を目の当たりにして悔しい思いをするミアですが、できる限りの知恵とガッツで乗り越えていく様は力強く爽快です。社会や人々の意識を変えていくことは簡単ではないけれど、ミアは声を上げて行動する中で回りの人たちを少しずつ変えていき、また自分自身も大きく成長しました。物語の中で描かれる移民や有色人種が直面する状況は厳しいけれど、勇気を持って動き出せば未来はきっとよい方向に変えられる! その確信が心の中に芽生えるような気持のよい結末です。(か)
※10歳にしてはかなり大人びた意識と行動力を持つ主人公は、13歳でカリフォルニア大学バークレー校に入学して政治学を専攻したという著者の姿が反映されているように感じられます。小学校高学年からでも読めますが、無理をせず、社会の問題に関心を持ち始めたYA世代にこそ読んでほしい作品です。
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