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『教えて! タリバンのこと 世界の見かたがかわる緊急講座』
内藤正典 著
ミシマ社 刊
2022年3月 発行
定価1870円(税込)
184ページ
対象:大人
民主主義、自由、人権を、戦闘機とともに運ぶのはもうやめよう。
タリバンと聞いて、皆さんはどんなイメージを持たれるでしょうか。「髭面にターバンを巻いて鉄砲を振り回しているイスラムの戦士」(本文34ページより)――私の中にはそんな恐ろしく野蛮なイメージが浮かんできます。実はそれは、日本を含む欧米メディアのイスラムに対する無理解と偏見が生んだ一方的な見方がしっかりと刷り込まれている結果の色眼鏡なのだということが、まずは衝撃的な事実として突きつけられます。私たちはイスラムのこと、タリバンのこと、どれだけきちんとした知識を持っているでしょうか。
イスラムと、日本を含む近代西欧諸国のものの考え方の土台は、水と油ほど違います。私たちは当たり前に主権は人(=国民)にあると考えますが、イスラムで主権を持つのは神だけであり、それを人間が奪い取ることは許されません。また自由の捉え方も大きく異なります。西欧社会は宗教的な規範が取り払われた状態、つまりは神から離れることによって得られるものを「自由」と考えますが(世俗主義)、イスラムでは神と共にあるからこそ自由でいられるとする聖俗不可分が絶対です。私たちは神から離れた状態(無神論)でも生きていくことができますが、イスラムは神を捨てることは人間をやめることにもなるので、それはできません。良い・悪いの問題ではなく、自分の生きる世界をどう見ているかが私たちの感覚とはまったく異なるのです。そして、自分たちのやり方(民主主義・自由・人権)が絶対的に正しく、前時代的に遅れていて誤った考えを持っているイスラム(タリバン)の人たちを正しい方向に導かなければならないというような奢った考えを捨てることから始めなければ、逆に西欧近代諸国の持つ良い面も伝えていくことはできないのです。
この本の中で著者は、人権重視を言いながらアフガン難民を締め出す欧米諸国のダブルスタンダードも厳しく批判しています。「人権や自由はミサイルや爆弾と引き換えに実現できるものではない」「西欧もイスラムも相手を力でねじ伏せてはならない」という言葉の裏には、力による支配で犠牲になる人たちがこれ以上増えてはならないという強い思いがあるように感じます。タリバン政権を認めない世界からの厳しい経済制裁で苦しんでいる一般のアフガニスタン人、とりわけ弱い立場の女性たちのことは本当に心配です。
私たちにはメディアにのる情報をうのみにして感情的にイスラムを忌避することなく、イスラムの良いところを学ぼうという姿勢が大切。「人間どうし、信頼のないとろこに対話はありませんし、対話のないところに平和は絶対にありえない」と内藤さんは仰っています。(か)
★この本と合わせて、既刊『となりのイスラム』(内藤正典・著/ミシマ社/1760円:定価)を読むことをオススメします!
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