ベスト👍 伝記
『エーリッヒ・ケストナー こわれた時代』
クラウス・コルドン 著
ガンツェンミュラー文子 訳
偕成社 刊
2022年4月 発行
定価2750円(税込)
357ページ
対象:中学生から

ナチ政権下のドイツで時代をみつづけた『エーミールと探偵たち』、『飛ぶ教室』の作家の生涯

本書は長らく品切れになっていた『ケストナー ナチスに抵抗し続けた作家』(1999年/偕成社)の新訳です。以前の本の存在は知ってはいましたが、実はきちんと読んだことはありませんでした。なんとなく恐れをなして(!?)横目で見ていたかんじ。今回、新たに刊行されるにあたり、ゲラをお預かりして、いち早く読ませていただきました。
表現が違うかもしれませんが、おもしろくて読む手が止まりませんでした! 読みものとして、ばつぐんにおもしろい! なぜ、前の本を読んでいなかったのか、悔やまれます。とほほ。

ドイツを代表する作家のひとり、ケストナーの生涯を本人の言葉の引用なども用いて描いた伝記。ケストナーは『エーミールと探偵たち』や『ふたりのロッテ』、『飛ぶ教室』といった作品がよく知られています。これらの作品を読んだことのある方も多いでしょう。作品のうまれた背景がよくわかる1冊です。
彼が戦時下、ドイツにとどまっていたことは有名です。なぜ、国外へ逃げなかったのか? その疑問にもこたえる内容になっています。

この本を書いたのは旧東ドイツの東ベルリンで育った、クラウス・コルドン。コルドンの経歴がよく活かされている1冊になっていると思いました。自身も東ベルリンで半生を送ったからこそ、ケストナーの葛藤や不安など複雑な心境を理解できたのかもしれません。二人の姿がダブって見えました。また、代表作「ベルリン3部作」もそうだったように、とにかく読者をひきつけて読ませる筆力の高さには舌を巻きます。
写真や注釈が多いのも、読む助けになっています。助け、という意味では巻末の年表と主な著作リストも大いに参考になるでしょう。訳者のあとがきも読みごたえがあります! 大人の読者には忘れずに読んでほしいです。

造本もとても素敵。洒落た作りで、手元に置きたくなる魅力があります。カバーをはずすと、ちょっと洋書みたい。この素敵な装画は雑誌「文學界」の表紙絵を描いている柳智之さん。古くなりにくい装丁だなと思いました。
ともかく! ケストナーの作品を読んだことのある人も、ない人も、広く手にしてほしいです。世界の状況がおかしい今、読むべき本ではないでしょうか。 (す)

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