ベスト👍 フィクション
『わたしは夢を見つづける』
ジャクリーン・ウッドソン 著
さくまゆみこ 訳
小学館 刊
2021年8月 発行
定価1760円(税込)
397ページ
対象:小学校高学年から

世界が大きく変わる時代に生まれ、その変化の一部となった私

アストリッド・リンドグレーン記念文学賞や国際アンデルセン賞作家賞など、世界の児童文学賞をいくつも受賞しているアメリカを代表する児童文学作家ジャクリーン・ウッドソンが、子ども時代を振り返ってその記憶を散文詩の形式で綴った自伝的文学作品。「頭に浮かんでくる思い出を書きとめたもの」と著者自身が語るように、様々な出来事を見つめ感じる幼いジャクリーンの心の揺れ動きが、詩という言葉の中で生き生きと読者に伝わります。時系列や因果関係、起承転結といった物語の決まりごとに縛られない分、言葉がゆったりと余白を持ち、書かれてない空白の部分を読者がそれぞれに想像する余地が残されているのですが、それによって大勢いる家族の一人ひとりの個性がくっきりと浮かび上がってくるのもとても印象的です。物静かで多くを外には出さないけれど、胸の内にはたくさんの言葉が溢れているジャクリーンが、言葉を紡ぐ作家になることを決意するまでの心の軌跡は、「夢を見る」というよりもっと確かな未来への希望に満ちた信念を感じさせます。

1963年、黒人への差別が社会に根強く残る南部オハイオ州に生まれたジャクリーン・ウッドソンは、サウスカロライナやニューヨークのブルックリンに住み、アフリカ系アメリカ人やラテンアメリカ系の人々などの多様な文化に囲まれて育ちました。社会の矛盾や差別を肌で感じることも多かったでしょうが、大家族の愛情が温かい毛布のように彼女を包み込んでいることが、たくさんの思い出のかけらから見てとれます。

オバマ元大統領はアメリカの人種問題を理解するために本書をすすめているそうですが、日本に暮らす私は「自分の未来を信じられる人間になるために、必要なものはなにか」をこの本から教えられた気がしました。(か)

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