ベスト👍 昔話
『クモのアナンシ ジャマイカのむかしばなし』
フィリップ・M・シャーロック 再話
マーシャ・ブラウン 絵
小宮由 訳
岩波書店 刊
2021年6月25日発行
定価1760円(税込)
174ページ
対象:小学校中学年から

小さなクモ、ときどき人間 ずるがしこくて、食いしんぼう――それが、アナンシ!

「ずっとずっと大むかしのことです。ジャマイカ島に、アナンシがいました……」と始まる昔話“アナンシと五”は、ナルニア国のおはなし会でも子どもたちに大人気の定番のお話です。このアナンシが活躍するとても愉快なお話集が出版されました。

アナンシはある時、森の王さまトラと賭けをしました。「昔話に出てくるトラの名前を自分の名前に変えてほしい」というアナンシに、トラは「ヘビを生け捕りにして連れてきたら願いをかなえてやる」と言います。森の誰もが「そんなことは不可能だ」と思うこの賭けに、アナンシはどんな知恵を使って勝ったのでしょうか?(第1話「アナンシとトラ」)

アナンシは決して善良な主人公とは言えません。かなりずる賢く知恵が回り、食いしん坊ゆえに起こす事件は読者の度肝を抜く展開もしばしば。けれど、どのお話もからっとしていて、そこから生まれる笑いはなんとも気持ちがいいものです。頭のいいアナンシが動物たちをやり込めれば「ほほー」と感心し、そのアナンシが出し抜かれるところを見れば「やられた!」と思う――読者はアナンシの活躍するお話に、すっかり魅了されてしまうのです。

このお話集のもう一つの魅力はマーシャ・ブラウンの挿絵です。「小さなクモ、ときどき人間」のアナンシは、この物語の中では終始クモの姿で描かれます。ひげもじゃで禿げ頭のおじさんの顔に見えるアナンシ(でもクモ)は実に表情豊かで、ずる賢くても憎めないのはこの絵の力もあるのでは……と思いました。

カリブ海周辺の陽気な人々によって語り継がれてきたアナンシのお話は、日本の子どもたちも大いに笑わせてくれることでしょう。(か)

★ご注文はお電話、Fax、メールにて承ります。
売場直通電話 03-3563-0730
Fax 03-3561-7350
メール narnia@kyobunkwan.co.jp