クリーンヒット⚾ フィクション
『あなたがいたところ ワタシゴト 14歳のひろしま・2』
中澤晶子 作
ささめやゆき 絵
汐文社 刊
2021年6月 発行
134ページ
定価1,540円(税込)
対象:小学校中学年から

ぜひ、残された被爆建物の声を聞いてください

昨年出版された『ワタシゴト 14歳のひろしま』の続編です。今回も修学旅行で広島を訪れる中学3年生の子どもたちの体験を通して、76年前の原爆投下のことが語られます。

ふとしたきっかけで中学2年の秋から不登校になってしまった片岡修。することもなく家でゴロゴロとしていた彼のもとに、修学旅行の事前学習委員の女子生徒から「調べて『じぜん新聞』に記事を書くように」という強引な指令が届きます。それは、爆心地からわずか170メートルの距離にあった元呉服店についての調査でした。この建物の地下で一人の男性が生き残ったことに衝撃を受けた修は、今なお残る被爆建物に呼ばれるように修学旅行に参加することになりますーー。

このシリーズの特徴は、子どもたちにとっては遥か昔に起こったことであり、想像するのも難しい原爆の惨禍を、一人ひとりの日常生活と結びつく出来事を通して、他人事ではない「自分と同じ年頃の子どもたちに起こったこと」として感じられるように描いていることです。人は悲惨な出来事には目をつむりたくなり「自分に起こったことではなくてよかった」と思いがちですが、この物語に登場する子どもたちは、1巻目では原爆資料館に展示された遺品を通じて、2巻目では被爆建物を訪れるという体験を通して、原爆を「ワタシゴト」として感じるようになっていきます。続編ではさらに引率者である先生たちがかつて中学生だったころの自分を振り返ることで、76年前の被爆の記憶が時間をおって次の世代に手渡されていっていることも、さりげなく語られていきます。

怖い、恐ろしい他人事で終わらせず、どうやって戦争の記憶を繋いでいくか。それは原爆に限らない被害について、また加害(戦争責任)についても課題となっていることです。重いテーマをサラリと描きながら、遠い戦争を子どもたちの身近に引き寄せたのは物語の力によるものが大きいでしょう。
この時期、ぜひ多くの人に読んでほしい作品です。(か)

☆こちらもあわせてどうぞ!
ワタシゴト 14歳のひろしま中澤晶子 作/ささめやゆき 絵/汐文社/1540円(税込み)→昨年出版された第1作です。
広島の木に会いにいく石田優子 著/偕成社/1980円(税込) 2015年刊

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