ベスト👍 創作評伝
『かけはし 慈しみの人・浅川巧』
中川なをみ 文
新日本出版社 刊
2020年9月 発行
本体1600円+税
253ページ
対象:小学校高学年以上

「自分にできることは何か?」ひとりの愚直な日本人の軌跡

「こんな日本人がいたんだ!」と言うと日本人礼賛のテレビ番組調(!?)になってしまいますが、この本を読んだときに正にそう思いました。
明治の時代、山梨県八ヶ岳山麓に生まれ、朝鮮半島の白磁や木工の美しさを広く世に伝えた浅川巧の創作評伝です。

キリスト教に出会い、クリスチャンとなった巧は日韓併合からまもなく営林署を退職し、尊敬する兄の誘いを受けて朝鮮半島に渡ります。
そこで見たものは統治国日本による朝鮮の人々と文化への差別と侮蔑の世界でした。巧はそうした偏見に与することなく半島の荒廃した山々の緑化に尽力する中、庶民が日常に使う白磁や木工の美しさに出会います。
朝鮮の言葉を覚え、市井の人々の中に解け込み、やがて柳宗悦と共に、朝鮮民族美術館の設立に努めた浅川巧。実在した人々の事実を繋ぎ合わせながら、物語として綴られた本書からは、浅川巧の人となりが生き生きと描き出されます。

「他国の山々の緑化と文化への貢献がどうしてそんなに素晴らしいの?」という問いは、この本を通して巧の生き様と死に様を知れば、霧のようになくなります。
その死に際して群れをなして別れを告げに集まった民衆たち、今も韓国の共同墓地にある巧の碑文にはこう刻まれています。
「韓国の山と民芸を愛し、韓国人の心の中に生きた日本人、ここ韓国の土となる」

すぐお隣の国なのに、なぜこんなにもいがみ合ってしまうのか?
私たちがすべきことの範は、浅川巧がその生き様を通して、今の私たちに語りかけている――コロナで心がささくれ立っている今だからこそ、一人でも多くの人に読んでもらいたいと思います。  (く)

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