ベスト👍 フィクション
『瓶に入れた手紙』
ヴァレリー・ゼナッティ 作
伏見操 訳
文研出版 刊
2019年4月 発行
本体1,500円+税
224ページ
対象:小学校高学年以上

瓶が届いた奇跡を、三年後にもう一度 二人で繰り返そう

日常的に爆弾テロが繰り返されるイスラエルに住む少女タル(物語の設定では19歳)は、近所で結婚を控えた若い女性が亡くなる自爆テロが起きたことをきっかけに、心の中に湧き上がる様々な思いを言葉につづるようになった。
ある日タルは突然、その思いを手紙にしてパレスチナの誰かに送ることを思いつく。やむにやまれぬ思いを書き記した手紙を瓶に入れ、それをガザで兵役についている兄に託したタルの元に、やがてガザマン(本名ナリーム)と名乗る青年からメールが届くが、それは激しい怒りに満ちたものだった。
「返事が来た」というその事実に一縷の望みを託して、必死に返信を送るタル。こうして二人の不器用なやりとりが始まった……。

イスラエルとパレスチナ――今も現実に争いが絶えないこの地を舞台にした本作は、非常にセンシティブな問題を果敢に取り扱った良書です。若者らしい軽快なメールのやりとりが、重くなりがちなテーマを読みやすく魅力的なものにしています。

パレスチナ人のナリームは何に憤っているのか、イスラエル人のタルにはなかなかわかりません。
でもタルはどんな言葉を投げつけられても「あなたを知りたい」という思いを持ち続け、彼に呼びかけるのです。イスラエル人、パレスチナ人などの大きな主語ではなく、“私”と“あなた”という小さな主語で対話を続けるうちに、二人の間に徐々に理解と共感が生まれていき、互いが無視できない存在となっていきます。
二人の気持ちが少しずつ通い合っていく過程を見ていく読者は、複雑に絡み合った憎しみと恐怖と不信感を克服するには何が必要か、そのヒントを得られるのではないでしょうか。 (か)

翻訳者の伏見操さんのあとがきから――
「ヴァレリーは言います。子どもや若者に向けた文学は、革命のできる文学であり、世界を変えられるものだ、と。これがヴァレリーの見つけた「自分のできること」であり、この本はその答えのひとつでしょう。そしてどんなに小さくても、できることをつづけていれば、少しでも、今日より明日はよくなるはずです。」

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