ベスト👍 フィクション
『オール・アメリカン・ボーイズ』
ジェイソン・レノルズ、ブレンダン・カイリー 著
中野怜奈 訳
偕成社刊
2020年12月 発行
本体1500円+税
361ページ
対象:中学生から

アメリカの「今」をリアルに描き出す!

タイトルを聞いたとき、アメリカの少年たちがバスケットボールに青春をかける物語かと思いましたが、読み始めて全く違う展開に驚きました。それは、ニュースでも話題になっている、いわゆる「ブラック・ライブズ・マター」を背景にした物語だったのです。

黒人の少年、「おれ」ことラシャドがパーティーに行く前にポテトチップスを買おうと立ち寄った店でことは起きました。バッグから携帯を出そうとしたときに偶然、店にいたおばさんにもろにぶつかられます。すぐにやってきた警官に「今なにしてた?」」と問い詰められ、万引きを疑われ、話も聞かずに道路に顔面をたたきつけられ、何度も殴られてしまいます。
それを偶然、目撃してしまった白人の少年クインは、その警官が友人の兄のポールだと気がつき、怖くなって現場から逃げ出しました。そして事件の動画は拡散され、ラシャドとクインが通う高校では抗議のデモが計画されました。

事件当日からデモが行われるまでの8日間を被害者・黒人ラシャドの視点を黒人作家のレイノルズが、目撃者の白人クインの視点を白人作家のカイリーが、それぞれ語ります。違う視点で語られるのも魅力のひとつになっています。物語が多重構想になり、複雑な社会を映し出しているようです。また、レイノルズは16歳のとき警官に言いがかりをつけられ手錠をかけられた経験があるそうです。そのためか、ラシャドの心情がとても胸に迫ってきました。物語は少年の語り口でテンポよく進みます。文体はとても読みやすい。その分、背景を思うとき、とても胸が苦しくなりました。最初のうち、「これはノンフィクションなのか?」と思うこともしばしばでした。それくらい迫力ある筆致です。

ニュースで見聞きしているだけではわからない、当事者の気持ちなどがよく伝わってくる「今」読むべき物語。主人公と同世代の子どもたちにはもちろんのこと、多くの大人にも読んでほしいと思います。差別とか、黒人問題とか難しいと避けずに向き合う勇気を持たねば、と強く感じた1冊でした。 (す)

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