クリーンヒット⚾ フィクション
『きらめく共和国』
アンドレス・バルバ 著
宇野和美 訳
東京創元社 刊
2020年11月13日 発行
本体1,800円+税
180ページ
対象:中学生以上
この不可解な事件は、悪夢か、現実か――
なにやら穏やかではない。帯の文句である。
「ある町にどこからか現れた、理解不能な言葉を話す子どもたち。
奇妙な子どもたちは、盗み、襲い、そして32人が、一斉に死んだ。」
(写真では帯を外しています。)
その下の表紙には、南国を連想させる動植物に囲まれて数人の子どもたちが描かれている。
エキゾチックで鮮やかな表紙のイメージとは真逆の文言に吸い寄せられるようにページをめくる。
話はこうだ。
舞台となるのは、ジャングルと茶色い川に抱かれるようにしてできたサンクリストバルという架空の町。
1995年1月、その町で32人の子どもたちが亡くなるという衝撃的な事件が起きた。子どもたちはみな町の人々とは異なる言語を話し、リーダーを持たずに、スーパーや人々を襲って盗むことで生活をしていた。そして夜になると忽然と姿を消した。いつ、どこから彼らはやってきたのか、いったい誰なのか、知っている大人はいなかった。
それから22年がたち、当時、社会福祉課の職員として町で働き、その不穏な出来事に翻弄された男性が事件の背景や人々の心情をクロニクルという形で綴った作品である。
「得体の知れない32人子どもたちが命を落とす」という残虐な“結末”が冒頭で示されているため、読者としては原因と詳細が気になって仕方がないと言ったらミーハーに過ぎるだろうか。事件の真相はすぐに形を表さず、徐々にサスペンス的要素を含んで見えてくる。
フィクションだけれどもリアルさを感じさせるのは、貧困、暴力と支配、邪推やおごりといったキーワードを自然に流れに組み込んでいるからだろう。人は、自分と異なものを恐れ、醜い差別意識を抱くことがある。登場人物たちの心情につど鳥肌が立つが、読むのをやめられない。
本を閉じたら、再び表紙に目を向けてほしい。
ここに描かれた絵の意味、きらめきに、子どもたちの見た希望や文明を築くことの尊さを知るだろう。そのことが救いになるはずだ。(い)
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