ベスト👍 フィクション
『ダリウスは今日も生きづらい』
アディーブ・コラーム 著
三辺律子 訳
集英社 刊
2020年12月20日 発行
406ページ
本体2,400円+税
対象:中学生以上

自分の場所を探す旅

「みんな、いてほしいと思ってるよ。ペルシア語にそういうことを言い表す言葉があるんだ。訳すと、『あなたの場所が空っぽ』っていう意味。誰かがいなくて寂しい時に使うんだよ」

これは主人公ダリウスに初めてできた親友が彼に伝えた言葉である。

人は誰でも自分の場所を持っている。家庭に、友人たちとの間に、働く場所や趣味の世界に。ところがある原因で、盲目的にその場所を他人に明け渡してしまう人もいる。ダリウスはそのひとりだ。
イラン出身の母と白人の父を持つペルシア系アメリカ人である彼は学校生活にうまくなじめず、家では父との確執を抱える16歳。おまけに父もダリウスもうつ病だ。
自己を否定的に捉えていることに加えてアイデンティティに悩むダリウスの不安は、「にっこりする一歩手前」「ほほえむ一歩手前」といった具合に自分の感情を100%表現することへのためらいや、常に相手の反応を気にする様子から痛いほど伝わってくる。

そう書くと全体的に暗いイメージをまとった作品に感じるが、祖父の病のために一家でアメリカを離れて母の故郷・イランへ向かうというストーリーは実によく練られていて、文化や宗教についての細かな描写は読んでいてともに旅をしている気分になる。
なによりこのダリウス、『スター・トレック』と『指輪物語』が大好きで、紅茶についてはアルバイト先の紅茶店の店主よりも深い知識を持っているというオタク気質なところが物語に明るさを添えていて、とても親しみを覚える。

これまでスカイプでしか会ったことのなかった祖父母との生の交流や初めてできた親友の存在により、心根の優しいダリウスは次第に自分の閉ざしていた部分を開いていく。その姿に私自身、似たような経験があるとつくづくと思い当たる。きっと、みんなどこかしら生きづらさを感じているのではないだろうか。
肌の色、容姿、宗教や文化、家庭環境の違い……挙げればきりがないような卑しさで人は人を忌避する。これは、そんな差別やいじめの問題の根本にある思い込みを揺さぶる手がかりになる作品ともいえる。 (い)

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