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「ウンム・アーザルのキッチン」 たくさんのふしぎ2024年6月号
菅瀬晶子 文
平澤朋子 絵
福音館書店 刊
2024年5月 発行
810円(税込)
40ページ
対象:小学校中学年から
ふつうの人の 暮らしから見えてくる中東
ウンム・アーザルはイスラエルに住むアラブ人のおばあちゃんです。彼女はイスラエルの中でも少数者であるアラブ人、かつキリスト教徒の家に生まれました。14歳の時に出稼ぎに出る父親と一緒に故郷の村を離れ、結婚後は長いこと修道院の厨房で働きながら家族を養い、4人の子どもたちを育ててきました。彼女の作る料理の美味しそうなこと! 立ちっぱなしで30人分もの食事を用意するのは重労働に違いありませんが、たくましい腕がテキパキと料理をこなす様子からは、その仕事でまっとうに生きてきた人の静かな誇りが感じられます。市場に並ぶ新鮮な野菜や果物、30年来の知人であるよろず屋さんが淹れてくれる薫り高いコーヒー、同じマンションに住む友人に頼まれて作る夕食、子どもや孫たちと囲む食卓などウンム・アーザルの生活を通して見えてくるのは、どこでも当たり前に守られなければならない人々の「日常」です。イスラエルやパレスチナについての情報が私たちに届くのは何事か争いが起こった時ばかりですが、そこには私たちと同じ普通の人々の暮らしがあること——美味しい料理で人々を喜ばせる、ウンム・アーザルのような人がいること―—を知ってほしいという著者の願いが伝わってきます。
ユダヤ人の国(イスラエル)の中でわずか人口の1.4%という少数者(アラブ人のキリスト教徒)であるウンム・アーザルは、たくさんの差別も苦労も経験してきました。勉強を続けたかったけれど、それが叶わなかったという苦い思いもあります。それでも料理の腕一本で家族を養い、子どもや孫を育ててきた彼女の「私は満足してるの。」という言葉の重みがずんと胸に響きます。私たちに必要なのは、ニュースの向こうに一人一人のかけがえのない人生が存在していることを常に忘れないでいることだと、ウンム・アーザルの作るたくさんの美味しそうな料理を見て考えました。
アラブ人キリスト教徒が金曜日に食べる特別な食事“ムジャッダラ”、ぜひ食べてみたいです! (か)
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