番外編ベスト👍 フィクション
『ふたりきりの戦争』
ヘルマン・シュルツ 作
渡辺広佐 訳
徳間書店 刊
2006年9月30日 発行
定価1,540円(税込)
232ページ
対象:小学校高学年から

敵対する国の子どもたちに生まれた信頼ーー

タイトルの「ふたりきり」ということばに胸がつぶれそうになります。前を見据えて歩く少年と少女の瞳に映るものをともにのぞく覚悟が問われている、そんな印象を抱かせるたたずまいの表紙です。
物語の舞台は第二次世界大戦末期のドイツ。両親と兄と離れ離れになってしまった主人公の少女エンヒェンは、赤十字の看護婦の助けで遠い村の農家に預けられます。そこにはドイツが占領地から連れてきたロシア人やポーランド人が外国人労働者として働いていました。ある日、彼らがSS(親衛隊の略称)に連れ去られる運命にあることを知ったエンヒェンは、その中のひとり、ロシア人の少年セルゲイと逃避行を決行します。

「戦争文学」「逃避行」というキーワードに重々しさを抱きがちですが、反して物語はふたりの冗談を交えた会話や緊張感と安堵を効果的に組み合わせた流れで読者をぐいぐいと引き込みます。突如家族を失い、寂寞たる孤独に耐えながら逃げるふたりが時に人の真心に触れ、また時に容赦ない裏切りにあいつつも一心に希望を求める姿は、たとえ読者が戦争を知らない子どもたちであったとしても強く心を揺さぶられます。
武力による国家間の闘争に巻き込まれ、その不遇をかこつことでしか戦争反対を表明できないと思われがちな子どもの中にも大胆な行動力が眠っていることに、そして子どもというものは体は小さくともけっして無力ではないということが行間から立ちのぼり、深く感じ入ります。それこそがこの物語の目指すところでしょう。この本がひとりでも多くの子どもに(言うまでもなく大人にも)読まれることを願ってやみません。 (い)

 

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