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『うちのおばあちゃん』
イルゼ・クレーベルガー 作
ハンス・ベーレンス さし絵
齋藤 尚子 訳
徳間書店 刊
2000年2月29日 発行
定価1,430円(税込)
208ページ
対象:小学校中学年から

ぼくの自慢は、おばあちゃん!

子どもたちが自分の宝物や持ち物を自慢しあう場面を一度は目にしたことがあるでしょう。この物語の主人公の男の子ヤンも、友だちが自慢話をするのを黙って聞いています。何か自慢できることはあったっけ。そこで思いついたのは……。

「うちのおばあちゃんはすごいんだぞ!」

そうです。ヤンの自慢は、一緒に暮らすおばあちゃん。それも、ローラースケートを履いてベビーカーを押しながら買い物に出かけたり、パーティーで若い子たちに得意のダンスをレッスンしてあげたりする天真爛漫でパワフルなおばあちゃんです。

ある夏休みのこと。ヤンときょうだいはおばあちゃんと一緒に、おばあちゃんの弟が園長を務める動物園に遊びに行きます。夏の間、ヤンたちは動物園の中にあるおじさんの家に泊まって家政婦の代わりにお手伝いをすることになったのですが、困ったことにおじさんは動物好きでも子どもは嫌い。血のつながった姪や甥とはいえ慣れない子どもたちとの生活にうんざりするおじさんに、一体どうなることやらと読者はハラハラします。
しかし、そんな様子を見守るおばあちゃんの眼差しの温かなことといったら。あえて口出ししない、手助けしないことで子どもたちの自立心を育てるだけでなくおじさんの思考力をも変えていきます。次第に距離の縮まる子どもたちとおじさん。その合間合間にもおばあちゃんのユーモアが炸裂していて読者の笑いを誘うストーリー展開は、本国ドイツで何十年と読み継がれるロングセラーならでは。

謙遜が美徳とされてきた日本では、他者の前で身内を褒めることは敬遠されがち。過度なへりくだりはかえって相手に不愉快な思いをさせたり、当の身内を傷つけたりすることもあり言葉の使い方に難しさを覚える瞬間です。「◯◯の欲目ではありませんが」などと枕詞のように断りを入れて話すこともあるくらいです。
そうした文化の違いからか、ヤンが「ぼくの自慢は、おばあちゃん!」と迷いなく言うことには子ども特有の純粋さに加えて清々しさが漂います。そこに土台としてある“個”を重んじる慣習を、大人はまざまざと感じるからではないでしょうか。 (い)

 

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