長らく品切れになっていて、上下巻のうち下巻しか読めない状態になっていた少年文庫2点の上巻が重版され、ようやく続けて読むことが出来るようになりました。
1作はオランダ生まれの作家ドラ・ド・ヨングが1943年に発表した『あらしの前』。オランダの小さな村に住むオールト一家の幸せな生活が、第2次世界大戦のドイツ軍侵攻によって無残にも打ち砕かれる結末に衝撃を受けたことをよく覚えています。出版当時も読者から「その後、オールト一家はどうなったのか?」という質問が相次ぎ、作者は4年後に続編『あらしのあと』を執筆したそうです。物語は決して戦争の悲惨さそのものを描きはしませんが、幸せだった日々と戻らない人々を描くことで、戦争が人間に与える傷の深さをくっきりと描き出します。どんな戦争にも本当の意味で勝者はなく、だからこそ起こしてはいけないのだということを今更ながら強く訴えかける名著です。翻訳は『君たちはどう生きるか』の吉野源三郎! 世界のあちこちで今も戦争が続く時だからこそ、読み返したい作品です。
もう1作は、イギリスの詩人ウォルター・デ・ラ・メアの『旧約聖書物語』です。しばらく上巻が切れていたので下巻も置いていなかった(!)のですが、この12月に上巻復刊がなりましたので、めでたく棚に揃ったというわけ。聖書は世界中で最も読まれている本の1冊ですし、クリスチャンでなくても様々な西洋の文化を理解するためには知っていた方がよい教養の重要な一部です。なんて偉そうに言うけれど、実はそんな前置きもなく「物語」として読んでとってもドラマチックで面白いのです。なんといっても書き手が幻想文学の大家デ・ラ・メアですからね~。いきなり聖書を手に取るのはハードルが高くても、子ども向けにリライトされた本書ならなんとか読めるかもしれないと思いませんか? ぜひそんな方に楽しんでいただきたい良書です。
『あらしの前』『あらしのあと』ドラ・ド・ヨング作/吉野源三郎 訳/岩波少年文庫 1023円・748円(税込)
→『あらしのあと』に斎藤惇夫さんが「生きる指針となった物語」というエッセイを寄せられています。こちらも必読!
『旧約聖書物語 上/下』ウォルター・デ・ラ・メア作/阿部知二 訳/岩波少年文庫 1100円・792円(税込)
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