ベスト 👍 フィクション
『秘密の花園』
F.H.バーネット 作
脇明子 訳
教文館 刊
2024年3月 発行
2310円(税込)
442ページ
対象:小学校高学年から

閉ざされた庭で少女が体験する奇跡の物語。

インドで両親をコレラで亡くした11歳の少女メアリ・レノックスは、ヨークシャーに住む叔父の屋敷に引き取られる。わがままいっぱいに育ち「つむじまがりのメアリ」と呼ばれた少女は、寂しいムアの中に建つ広大な屋敷で10年間、誰も入ったことのない閉ざされた庭への鍵を見つけ、その花園をよみがえらせるが、その過程でメアリは屋敷の人々との出会いを通し、自らも強くまっすぐに成長させていくのだった。

本書はフランシス・ホジソン・バーネットの著した児童文学の名作として、これまでにも数多くの翻訳書が出ています。訳者の脇明子さんも、子どもの頃に出合い、何度も読み返してきた大好きな作品だそうです。その思いが物語の隅々にまで満ち溢れる素晴らしい1冊になりました。

「嫌な子ども」として描かれることの多いメアリですが、彼女の性格は周りの大人が愛情を持って育てなかったことに原因があることがはっきりと分かります。彼女は自分にきちんと向き合ってくれる存在(メイドのマーサや、庭師のベン、動物と言葉を交わせる少年ディッコン)に出会うことで、初めて自分自身も相手も「一人の人間」として受け入れられるようになるのです。そして、人間以上の彼女の心を癒したのは植物や鳥といった自然の生き物たちでした。人に対しては警戒心を解けないメアリが、コマドリにみるみる心を開く様子は読者の胸を強く打つシーンです。春を迎えようと灰色の自然が少しずつ眠りから目を覚ましていくのと時を合わせて、秘密の花園で芽吹く植物の世話をしていくメアリも生き生きと輝いていく様子に、自然が人間に与える力の大きさを感じます。

翻訳について:全体の文章が「である調」であることも本書の特徴です。文章全体がきりっと引き締まり、またメアリの子どもらしさも自然に伝わってきます。さらにヨークシャーなまりで話すマーサやベン、ディッコンが、翻訳によっては「田舎者」のような印象を受けることもあるのですが、この翻訳ではその言葉づかいから人柄の温かさがにじみ出るように思われます。メアリやコリンが一生懸命ヨークシャーなまりを真似しようとする場面などは、そのほほえましさに思わず笑いが込み上げるくらいです。クラシカルで装飾的な扉のイラストも、物語とピッタリで非常に魅力的! 教文館の出版物ではありますが『秘密の花園』の邦訳決定版と呼んで差し支えない作品です。

図書館ではブッカーがかかっていて見られないと思いますが、書店で買われた方はぜひカバーをめくってみてください。その下に何が隠れているか……それは、お手元に置いてくださる方だけのお楽しみです!(か)

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