ベスト 👍 フィクション
『コメディ・クイーン』
イェニー・ヤーゲルフェルト 作
ヘレンハルメ美穂 訳
岩波書店 刊
2024年10月 発行
2310円(税込)
278ページ
対象:中学生以上

12歳の少女の、心の痛みと再生を描いた物語

うつ病による自殺で母を亡くした12歳のサーシャが考えたのは、「ママのようにならないため」の7条からなるリストでした。自分も人も泣かせて死んだ母親に対する反発から人々を笑わせるコメディ・クイーンになることを決意したサーシャは、持ち前の「目標に向かって一直線に進む」取り柄を活かしてスタンダップ・コメディアンになろうと奮闘します。そして、叔父のオッシが紹介してくれたコメディアンのヘンリックが、2週間後のお笑いバトルで自分の持ち時間から3分をサーシャに譲ってくれることになり、彼女は舞台デビューを果たすことになるのです。親友のマッタがくれたノートにお笑いのネタを書き、公園のウサギ相手に練習をし、ついに迎えた本番でサーシャは大成功を収めますが……。

母親と同じ茶色くて長い髪を突然バリカンでバッサリ切ったり、12歳の誕生日プレゼント(=小さなころから欲しくてたまらなった仔犬)を拒否したりする娘の様子を案じた父親は、児童精神科へサーシャを連れていきますが、彼女は「自分には悩みはない、気持ちを話す必要なんてない」と言って明るい普通の12歳を装います。けれど、実際には何をしていても不意に母親のことを思い出しますし、また思い出しそうになるとその思考や感情にふたをして必死に自分を守っているのです。父親は彼女が涙一つこぼさないことを心配しますが、それはサーシャが父親に今以上の悲しい思いをさせたくないと思って、泣かないための涙ぐましい努力をしているから―—いつも泣いていて、そして自分を置いて死んでしまった母親に対する怒りと悲しみと愛おしさを、人一倍感じているのがサーシャなのです。

大切な人を亡くした時、それは大人であっても自分の気持ちをコントロールするのはとても難しいことです。ママを求める気持ちを必死にこらえて踏ん張るサーシャの心の内を覗く読者は、時に辛く感じる場面もあることでしょう。けれど、パパ、オッシおじさん、おばあちゃん、セシリア先生、心理士のリンなどの周囲の大人が、それぞれの役目と立ち位置でサーシャを支えようとする姿に安堵することもまた確かです。スタンダップ・コメディの大成功を経て、初めて自分の本当の気持ちと向かい合ったサーシャが亡くなった母親に伝えた愛いっぱいの言葉は、人生を再び歩み出したさわやかさと力強さに満ちています。(か)

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