ベスト 👍 ノンフィクション
『ウクライナ わたしのことも思い出して 戦地からの証言』
ジョージ・バトラー 著
原田勝 訳
小学館 刊
2025年2月 発行
2200円(税込)
240ページ
対象:中学生以上

あなたに、この声は届いていますか?

ロシアによるウクライナ侵攻が始まって2月24日で3年になります。この本は、これまでも世界中の紛争地や難民キャンプを取材してきたイギリス人ジャーナリストの手によるもので、インタビューとスケッチにより戦下のウクライナで生きる人々の声を丁寧に拾っています。
彼の取材に答えてくれた人に元から軍人だった人は少なく、戦争が起こる前は普通の市民として暮らしてきた人たちでした。2月24日の早朝、爆撃の音で目が覚め、突然戦争の渦中に投げ込まれた人たちの衝撃は想像を絶するものがあります。その後目にすることになった戦争の現実ーーミサイルによる攻撃で自宅が破壊された人、ロシア兵により肉親や知り合いが殺される場面を目撃した人、全てのインフラが破壊されながら極寒の中数か月も地下室に閉じ込められた人ーー彼らの心と体に焼き付けられたすさまじい体験と恐怖の記憶は、一生消えることはないでしょう。戦闘が終わったとしても、戦争は終わらないのです。

証言者は、ロシアへの憎しみや怒りを露にする人もあれば、戦時下の己の役割に使命感を持っていることを淡々と語る人、先行きの見えない不安を抱えながらもなんとか希望を見出そうとする人たちなど様々です。どの声も個人的な体験でありながら、そこにあるのは世界中のあらゆる地域・時代で同じように人々を苦しめてきた「戦争」の姿なのは言うまでもありません。

著者による戦場のスケッチと証言者の肖像画は静謐で大変美しいものです。全てが写り込んでしまうことで時に暴力的にもなる写真とは異なり、彼の意識を通して取捨選択された対象を見る時「芸術的手法による節度あるジャーナリズム」が人の心に訴えかける力の大きさを感じます。つらい現実から目をそらさずにいるためにも、このイラストと証言という組み合わせはとても優れているのです。

人の命が理由なく大量に奪われ、人生が破壊される戦争をなくすために、私たちは何ができるのでしょうか。そのためには戦争には大義も正義もなく、あるのは「痛み」だけであることを一人でも多くの人が心に深く刻まなければなりません。ウクライナの人たちがこの3年間感じてきた苦しみを理解するためにも、ぜひこの証言集を多くの方に読んでいただきたいと願っています。(か)

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