ベスト👍 ノンフィクション
『原発事故、ひとりひとりの記憶 3.11から今に続くこと』
吉田千亜 著
岩波書店 刊
2024年2月20日 発行
1056円(税込)
226ページ
対象:中学生から

2011年3月11日からの日々をたどった記録ーーあの日、何が起きたのか?

本書に登場する人、著者のそれぞれの想いがダイレクトに伝わってきて、とても体力のいる読書でしたーー。
久しぶりに噛みしめながら読んだので読み終えるのに思ったより時間がかかりました。また、感情をコントロールするのが難しかった。思わず涙し、ページをめくる手が止まったことも。

著者が2011年3月11日に起きた地震、津波、原発事故で被災された人びとの声に耳を傾けた記録です。
10年以上の月日が経った今だからこそ、感じること、見えることがあるのだと思えます。また当たり前だけれど、それぞれに事情は違うのだということを突き付けられた気もします。
このような事故などがあると○○万人の被害者とか、まとまった数字で報道されることが多々ありますが、まとめて語れるものなど何もない。語ってはいけない。そんなことを思いました。

原発事故後に著者が出会った18人の日々を丁寧に記しています。
章タイトルを挙げると「第1章:原発から3㎞の双葉町でー「もう帰れないな」と思った」「第2章:原発から60㎞の郡山市でー母子避難を経て」「第3章:原発から40㎞の相馬市でー避難をせず、裁判を問う」「第4章:避難指示が出なかった地域でー地元を測り続ける」「第5章:原発から20㎞圏内でー原発のすぐ近くで活動を続けた人たち」「第6章:あの原発事故は防げたかもしれなかった」「第7章:原発事故と子どもたち」「第8章:甲状腺がんに罹患した子どもたちー「誰にも言えずに」「当事者の声を聞いて」」「第9章:区域外避難者たちの苦難ー住宅付与の打ち切り」「第10章:原発事故の被害の枠組みを広げる」です。

全編通して胸に響いたのですが、あとがきの一文に著者の誠実さを垣間見る気がしました。
「~この本を書くのは、本当に苦しくてとても時間がかかりました。これまで文章を書いてきた中で、一番、悩みもがき、なぜ、こんなにつらいのか、ずっと考えながら書いていました。それは、「書ける(書いていい)人間なのか」を、読む人からも、取材をする相手からも、問われておかしくない立場にあると自覚しているからです。
若い人たちに対して原発事故を伝えるということよりも前に、本当は申し訳なさを抱えています。心配なく生きられる社会を手渡さなくてはならない大人でありながら、現実にはそうなってはいないと考えているからです。」
テレビのニュースではもちろん、新聞などでも報道されなくなっていることが書かれています。ま、でもテレビだと結局流れてしまうので、書籍の形で読めるのはいいことかなと思いました。社会のありようを考えざるをえない1冊です。若い人に限らず、様々な世代の人に手にしてほしいものです。  (す)

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