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『シンデレラはどこへ行ったのか 少女小説と『ジェイン・エア』』
廣野由美子 著
岩波書店 刊
2023年9月 発行
1034円(税込)
228ページ
対象:大人
王子様を待たない、強く生きる女性主人公の物語はどう生まれ、どう広がっていったのか?
近年、児童文学の古典的作品の中で少女が主人公になっている作品(=少女小説)をあたらな視点で読み解く本が増えています。
本書は英文学の研究者である廣野由美子さんが子どものころに出会い、その後の人生を方向づけるきっかけとなった少女小説を“ジェイン・エア・シンドローム”という切り口で読み解いていくスリリングな論評です。
女の子が憧れるおとぎ話のお姫様の多くは「いつか王子様が…」という言葉に表されるように受動的で、そういった女性像が物語を通して幼い頃から刷り込まれていく傾向があります。こういった姿勢とは異なり「試練を乗り越えて自力で幸せを獲得する女性像」は、いつから文学の中で描かれるようになったのか――その原点を探ると、シャーロット・ブロンテが1847年に著した『ジェイン・エア』にたどり着くとの仮説をたてた廣野さんは、内容を「不遇な生い立ち」「教育とキャリア形成」「対等なパートナーとの出会い」などの主人公の人生の段階における重要なポイントに分けて考察します。そして、その後にアメリカとカナダで生まれた少女小説――オルコットの『若草物語』(1868年)、ポーターの『リンバロストの乙女』(1909年)、ウェブスターの『あしながおじさん』(1912年)、モンゴメリの『赤毛のアン』(1908年)—―を、『ジェイン・エア』に続く脱シンデレラ物語として読み解いていくのです。
廣野さんの解説を読むと、なぜこれらの作品が100年以上も読み継がれてきたのか、その理由が見えてきます。女性は今も昔もより多くの場面で困難に遭遇しますが、これらの物語は若い読者(特に女性たち)に間違いなく生きるための力と希望を与えてきたのです。
本書の中で特に嬉しく注目したいのが、ルーマー・ゴッデンの作品『木曜日の子どもたち』を取り上げているところです。この物語がどのように「『ジェイン・エア』の改変・反転」になっているかを読むと、作品の今日性と普遍性が改めて深く感じられます。長らく品切れになっていたこの本が近々岩波少年文庫に入るという情報もありますので(脇明子訳『木曜日に生まれた子どもたち』)、まだお読みでない方はぜひこの新書と合わせてご覧ください! (か)
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