ベスト👍 フィクション
『あした、弁当を作る。』
ひこ・田中 著
講談社 刊
2023年2月7日 発行
定価1540円(税込)
271ページ
対象:中学生から

中学生男子・タツキの複雑な自立心を描く

ある朝、学校へ行くタツキの背中を母親が「行ってらっしゃい」といつものように触れる。昨日まで何ともなかったのに何故か、ゾクッと寒気がした。昼休み、弁当箱を開けると母親が作ったおかずに圧を感じて、お腹は空いているのに食欲が失せてしまった。どうしてなんだろう…?
このことをきっかけにこれまで「当たり前」と思っていた日常のことーー母さんが部屋のそうじをしてくれていること、洗濯をしてくれること、などについて疑問を抱き、考え始める。部屋に入られることをちょっと嫌だな、と思うことにも気づいたり。でもはっきりと面と向かって「NO」とは言えず、モヤモヤする毎日。
そして次第に自分で弁当を作り始めるタツキ。父さんはそれを母さんの仕事を奪っている、という。母親からは「そんなにお母さんが嫌いなの」と言われる。そんなことはないのに!

…こんな思考の逡巡をタツキの語りで綴った作品です。
中学生男子の日常を軽妙な語り口で描いており、小難しいことは全くなく、ついクスっと笑ってしまいます。親近感のわく文体じゃないかな。リアル中学生の反応を知りたいな、と思いました。

幼稚園からの幼なじみ白山夏帆、小学校からの友だち酒井彩、中学になってから仲良くなった村中勝との4人でいつもわちゃわちゃしている。この友だち関係も読んでいて、とてもおもしろい。いろんなことに気がつき始めたタツキの気持ちの動きを丁寧に追っています。
実際、こんなに言語化はできないだろうけど、自分の中学生のころを思い出しても、こんなかんじだったかもと思ったり。
またタツキの両親の関係性も、妙にリアル。特にタツキの父親へはお話のなかの人なのに、とても嫌悪感を感じてしまいました! 高圧的で、「男は」「女は」という思考をするタイプ。

ジェンダーの問題をうまく物語に昇華している、と思いました。デビュー作『お引越し』をなんとなく、思い出します。これも衝撃的な作品だったよなあ。こういうのを描いたら、ひこさんは抜群にうまいですね。そんなふうに感じました(エラソーですみません)。
ともかく、主人公のタツキがごくフツーの子だけど、魅力的で、いいなと思いました。 (す)

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