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『終戦日記一九四五』
エーリヒ・ケストナー著
酒寄進一 訳
岩波書店 刊
2022年6月 発行
定価1067円(税込)
368 ページ
対象:大人
大人は子どもよりも愚かではないか?
『エーミールと探偵たち』や『ふたりのロッテ』『飛ぶ教室』などの作品で有名な作家のエーリヒ・ケストナーが、1945年の2月~7月に書いた日記。終戦を挟んだその前後の稀有な記録です。
ケストナーが日記を書き始めたのは1945年2月――この本を読む私たちはその3か月後にドイツが降伏することを知っていますが、ケストナーはもちろんその時点で未来を知ることはできません。戦争末期の重苦しい空気は特に3月上旬まで綴られた首都・ベルリンでの記述に感じられますが、オーストリア山中の村に映画関係者とともに避難した後は、同じ戦況や戦争遂行者たちの行状、日々の暮らしについて筆を振るっていても少し自由度が増しているように思われました。ケストナー特有の少々毒の混じったユーモアが随所に現れ、どんなに国がプロパガンダで覆い隠そうとしても、物事を俯瞰することのできた人々には事実(全体でなくてもその片鱗)が見えていたのだということがわかります。
戦争は降伏文書に署名すれば形式的には終了します。けれど、前線にいる兵士や一般市民にとって、戦争はそんな風に簡単に終わるものではありません。日記には敗残兵の撤退の様子や、散発的に続く戦闘、戦時中の行為(ナチのシンパであったこと)を隠したりごまかしたりしようとする人々の様子などの混乱ぶりも描かれます。こうした出来事の一つ一つを読んでいく私たちは、原題の「45年を銘記せよ」という言葉を深く考えさせられるのです。人間はそう簡単には変わりません。過去を記憶し、学ぼうという謙虚な姿勢を失ったとき、再び過ちを繰り返しかねない――今、ケストナーの『終戦日記一九四五』を読むことの意味を、一人一人が心に問いかけなければならないと感じます。(か)
ケストナーについては、今年の4月に刊行された伝記『エーリッヒ・ケストナー こわれた時代』(偕成社)を合わせて読まれるとこの時代の様子がさらによくわかります。この夏、ぜひお薦めです!
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