ベスト👍 絵本
『時をこえて ひと針のゆくえ』
アナイス・ボーリュー 作
青木恵都 訳
タムラ堂 刊
2022年3月1日 発行
定価4,840円(税込/トートバッグ付き/分売不可)
32ページ
対象:中学生から
廃物に施された植物刺繍 時をこえてひと針に託した思い
薄茶の函から取り出した本は、今時めずらしいクロス装丁の大型本。表紙にくり抜かれた窓には黒地に植物の刺繍が施されています。
『夜の木』などで知られるインドのタラブックスから出版された新作は、一風変わった植物刺繍の作品集です。
アッサムイチイ、ハエトリソウ、フィジーシノブ、キヌガサタケ……。これらはどれも絶滅危惧種に指定される野生の植物です。
ページをめくると細かな葉の1枚1枚、穂先や枝先の1本1本まで怠ることなく丁寧に刺繍された様が目を引きます。
刺繍はまず図案を考えることに始まり、それを布地にトレースし(下絵なしに布地に直接刺す場合もあります)、ステッチの種類や刺繡糸の色を変えながらひと針ずつ刺すことで完成します。それは、キャンバスに絵を描くのとよく似ています。
凛とした美しさを讃える数々の植物刺繍ですが、これほど細密に表現するのにどれほどの時間と根気を要したことでしょう。ひと針に託した思いを想像し、崇高さを抱かずにはおれません。
さらに驚くべきことに、刺繍している黒の地はなんとビニール袋。もろく破れやすいビニールに、なぜわざわざ刺繡を施そうと考えたのかーー。
作者のアナイス・ボーリューはフランスの現代刺繍作家。ある時、西アフリカを旅した彼女は、道端に無数の黒いビニール袋が捨てられ植物を覆っている光景を目の当たりにします。廃物を前に「自分にできることは何か」を問い、辿り着いたのがビニール袋に絶滅の危機に瀕する植物を糸で描くことでした。そして、永遠に続くように思われた刺繍の作業は祖母から母へ、さらにその娘へと時を超えて受け継がれていきました。
かくしてできあがった植物たちは黒いビニールの無機質さがもたらす効果により、岩肌にひっそりと咲くように、あるいは暗闇に命のともしびを掲げるように浮き上がって見えて、目にした人の心に深い感動を呼び起こすのです。
自分のために、大切な人への贈り物にまたとない1冊です。 (い)
※本書は手漉きの紙にシルクスクリーンで印刷されたものではありませんが、こだわりを持って制作された本特有の個性がありますので風合いとしてお楽しみください。
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