ベスト フィクション
『夏のサンタクロース フィンランドのお話集』
アンニ・スヴァン 作
ルドルフ・コイヴ 絵
古市真由美 訳
岩波書店 刊
2023年10月 発行
定価891円(税込)
266ページ
対象:小学校中学年から
フィンランドの「童話の女王」による、色とりどりの13篇
両親の留守中に家の裏で倒れていた白いひげのおじいさんは、なんとサンタクロースでした。サンタクロースは3人の子どもたちに、一歩で70キロメートルも進む大切なブーツの片方を森のヒーシ(魔物)に盗まれてしまったと話します。子どもたちはかわいそうなサンタクロースのブーツを取り戻そうと、途中で出会ったキツツキと一緒にヒーシの住む深い森の奥まででかけていくのです――。
作者のアンニ・スヴァンはフィンランドで「童話の女王」と呼ばれる作家で、支配階級の使うスウェーデン語ではなく、民衆の言葉(フィンランド語)で数多くの作品を残し、児童文学の基礎を築きました。物語は昔ばなしの体裁をとりつつも、登場人物の心の機微や、作者の自然観が反映されたところが特徴で、中でも美しい花々、鳥、森の獣や不思議な存在―ペイッコ、ヒーシ、妖精、人魚ら—が、人々の暮らしの傍らにあるものとして自然に描かれていることに心惹かれます。自然そのものが物語の重要な登場人物なのです。
物語の主人公が体験する大小様々な試練は決して安易なハッピーエンドに収まることはありません。それぞれが自らの心に問うて得た結果が、それぞにとっての幸福の形であることなどを、やさしい短い物語として読者の心に響くように綴るアンニ・スヴァンは、天性の物語作家と言えるでしょう。
「春をむかえにいった三人の子どもたち」の中で春の女神が子どもたちに語った言葉や、子どもたちの力で春がやって来たことを知った両親がつぶやく最後の台詞は、この国の歴史を知った時、より深い感動を読者にもたらします。今から90年前に書かれたお話集ですが、作者の思いは古びることなく、時と空間をこえて現代の日本の読者にもしっかりと届けられると思います。(か)
「生ある者が向き合うべき真実を、美しい物語のかたちで、あたたく描いているからこそ、スヴァンの作品は色あせず、百年も読みつがれてきたのではないでしょうか」(翻訳者・古市真由美さんのあとがきより)
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