ベスト👍 ノンフィクション
『チェコのヤポンカ 私が子どもの本の翻訳家になるまで』
木村有子 著
かもがわ出版 刊
2024年1月 発行
定価1870円(税込)
191ページ
対象:大人

時代のうねりを感じながら、心の故郷チェコとかかわってきたヤポンカのエッセイ

ズデネック・ミレルの「もぐらくん」シリーズや、ヨゼフ・チャペックの『こいぬとこねこのおかしな話』など、チェコの児童書の翻訳家として知られる木村有子さんの初エッセイ。父親の仕事の都合で小学3年生の時にチェコスロバキアに移り住み、2年半を社会主義時代のチェコで過ごした木村さんが何を見て感じたか、そしてその経験が後の人生にどのような影響を与えたのかが綴られます。

言葉もわからないまま突然にほおりこまれた異国の環境。小学校も家に近い地元の学校に通うことになった木村さんですが、子どもたちは珍しい外国人に興味津々、あっという間に東洋の島国から来た女の子を受け入れてしまいます。チェコの暮らしはカルチャーギャップもたくさんありましたが、豊かな自然と温かい人々の存在によって、木村さんはチェコという国に対してたくさんの良い思い出を持ち帰ることができました。小学校6年生で日本に帰国した時の疎外感や、10年後に再び夢を持ち留学生として訪れた憧れの地で「社会主義の国で外国人の女性が一人で暮らす」ことの困難に直面した時に木村さんを支えてくれたのは、チェコで経験した子ども時代の幸せな時間の記憶と、チェコの素晴らしい絵本の存在でした。チェコへの愛がゆらぐことなく後の翻訳家という仕事に結びついていったのも、子どもの頃に温かく受け入れてくれたかの国の素晴らしい人たちの存在があったからこそと言えるでしょう。

社会主義体制と聞くと、閉塞感のある暗いイメージしか浮かばない人も多いと思います。物資不足に始まり、幼い木村さんが気づかなかった監視社会や言論統制などの不自由があったのは事実ですが、そこに生きていた人々との心の交流がどんなに豊かなものだったか、このエッセイが示してくれています。社会がどうであれ、やはり最後は人と人―-今の私たちの国の在り方を振り返りながら、そんなことを考えました。(か)

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