クリーンヒット ⚾ 絵本
『ライオン』
ウィリアム・ペーン・デュボア 文・絵
まさきるりこ 訳
瑞雲舎 刊
2025年2月 発行
40ページ
対象:小学校低学年から
ある時、一人の天使の頭に「ライオン」という名まえが思い浮かびました。
昔、空の雲よりもずっと高いところに「どうぶつ工房」と呼ばれる宮殿がありました。その中の一つの「絵画室」は水晶とダイアモンドでできていて、104人の天使たちが銀のいすに座って動物の絵を描いていました。天使たちはまず、新しい動物の名前を思いつくとそれを金の文字で白い紙に書き、その後で名前にふさわしい姿をいろいろな色を使って絵に描き、地上に送り込んでいたのです。
ある時、絵画室長のフォアマンという天使が「ライオン」という名前を思いつきました。ところが、絵描きたちを監督する役目を担っていて、しばらく自分で絵を描いていなかったフォアマンは、どうやって動物の絵を描けばいいかわからなくなってしまったのです。そこで、他の絵描きたちが絵を描く様子を見て歩いた後、ようやくクレヨンの色をありったけ使って小さな太った動物の絵を描きました。それはいったいどんな姿だったでしょう? フォアマンは「ライオン」という並外れて美しい名前にふさわしい姿を描くことができたのでしょうか。
『ものぐさトミー』や『ねずみ女房』などの作品で知られるウィリアム・ペーン・デュボアが1955年に出版し、栄えあるコールデコット賞のオナー賞を受賞した作品が、原書の刊行から70年を経て初めて日本に紹介されました。翻訳者の間崎ルリ子さんは、ボストン公共図書館の児童室で64年前に出合った本書をアメリカの図書館で、日本の文庫で、何度も子どもたちに読んで聞かせたそうですが、不思議なことにこれまで邦訳される機会に恵まれなかったのだとか。確かに一見したところ、いわゆる一般受けしそうなイラストではありませんし、天使が地上に動物を送り込むという設定も、人によっては宗教的と感じる場合があるのかもしれません。でも、そういった先入観をひとまず横に置いて作品と向き合ってみた時、フォアマンが仲間の意見を聞きながらああでもないこうでもないと考えたり、くすくす笑われてちょっと恥ずかしくなったりしながらも一生懸命に絵を描き直していく様子は、まっすぐな子どもの姿に重なります。確かに最初にフォアマンが描いたライオンは、あの堂々とした“百獣の王”を知っている私たちからすると思わず笑ってしまうようなパンクな姿で、読んでもらった子どもたちが笑ってしまったのもうなずけます。
この本は子どもが自ら進んで手に取ることは少ないように思いますが、だからこそ大人が積極的にそのおもしろさを紹介する必要があります。絵本としては文章量が多く、大勢の読み聞かせには難しいかもしれませんが、長い物語を楽しめるようになった子どもたちに読んでやればきっと楽しむに違いありません。(か)
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