クリーンヒット ⚾ エッセイ&フィクション
『まだら模様の日々』
岩瀬成子 著
かもがわ出版 刊
2024年4月 発行
1980円(税込)
207ページ
対象:中学生以上

エッセイ・写真・連作短編……一冊まるごと「岩瀬成子の世界」

1977年『朝はだんだん見えてくる』(理論社)でデビューし、日本児童文学者協会新人賞受賞した岩瀬成子さんは、その後も小学館文学賞、産経児童出版文化賞受賞、路傍の石文学賞受賞、日本児童文学者協会賞受賞、野間児童文芸賞、産経児童出版文化賞大賞受賞、坪田譲治文学賞受賞と、数々の児童文学賞を受けらてこられた日本の児童文学界を代表する作家です。子どもを決して美化してはいないけれど、言葉にできないたくさんの複雑な思いを抱えている子どもの心の内を丁寧に描いて共感を呼ぶその作品世界は、過激な設定でジェットコースターのような展開の物語が多い中で静かな輝きを放っています。こうした岩瀬さんの作品の根っこがどこにあるのか――物語の原点にある自身の子どもの頃の体験や記憶をたぐり寄せながら書かれたエッセイ「まだらな毎日」と、エッセイに呼応するように書かれた連作短編「釘乃の穴」が収録されたのが本書です。

エッセイを読んで驚くのが子どもの頃に体験した出来事の記憶が鮮明であることだけでなく、「その時自分がどう感じたか」を非常によく覚えていること。両親を始めとする周りの大人を鋭く観察しており、時に子どもらしからぬ冷めた目で母親をじっと見ている様子は、大人になった自分が読むと少し怖い気もします。このようなエッセイの描写は岩瀬さんの作品世界と通底するものがあり、大人になって忘れてしまった子ども時代の胸苦しさが知らずによみがえりました。

後半の連作短編は10歳の少女・釘乃が、家族や親せき、友人など過ごす日々が描かれます。どの登場人物も一風変わった人たちで、私の身の回りにいる「普通の人」とは少しずれたところがあるのですが、その微妙なズレの中に可笑しさや寂しさと同時に読み手をハッとさせる言葉が混じります。家族だからこそ交わされる遠慮のない(時にかみ合わない)会話の端々から「人と生きていくというのは、こういうことなのかもしれない」と妙に納得したのでした。
本作品の魅力は言葉で伝えるのがとても難しいので、これはぜひ皆さんに読んで感じていただきたいと思います。(か)

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