クリーンヒット ⚾ フィクション
『ぼくの心は炎に焼かれる 植民地のふたりの少年』
ビヴァリー・ナイドゥー 作
徳間書店 刊
2024年3月 発行
1870円(税込)
232ページ
対象:中学生以上

ふたりの少年の視点からアフリカの歴史の一場面を描き出す、歴史フィクション

黒人の少年ムゴの父親は白人の農場主の元で馬の世話をしており、ムゴ自身も料理人の手伝いをするキッチン・トトとして働いていた。この家には都会の寄宿学校に通うムゴと同世代の少年マシューがいて、自宅へ戻ってくるとムゴと二人で親には内緒の危険な遊びをするなど、二人の間には使用人と主人というだけではない繋がりもあった。そんなある日、白人に奪われた祖先の土地を取り戻そうと武装闘争を繰り広げる<マウマウ>の一団がムゴたちの農場にもやってくる。人々を暴力で従わせようとするマウマウに恐れと嫌悪を抱く一方で、その運動に加わろうとする兄の決意に衝撃を受けるムゴ。
ムゴの暮らす農場の周りでも不穏な動きがみられると主人のブワナ・グレイソンはフェンスで何重にも土地を囲い、護衛を雇ってマウマウから身を守ろうとしていた。ある時、息子のマシューの火の不始末による失火で馬小屋と畑が消失したことを、マウマウの一味となったムゴの父親の仕業であると誤解した主人は、使用人全員を解雇して警察に引き渡してしまう。激しい拷問で自白を強要され、収容所に送られるムゴと家族――大勢の罪もない人たちが詰め込まれたトラックの荷台にうずくまるムゴの身体の中には、抑えようもない悲しみと怒りの炎が燃え滾っていた……。

物語の舞台は1951年、イギリスの植民地下にあったケニアです。アフリカの各地が第2次大戦後もヨーロッパ列強の支配下にあったことは近代史の授業を通して「歴史上の出来事」として知ってはいましたが、そこにある圧倒的な支配・被支配の力の格差は想像しがたいものがありました。ムゴとマシューという少年の視点を通すことで、支配の構造としての暴力が小さな出来事から具体的に描き出されていき、読者は頭ではなく心でその理不尽さを感じることができます。けれど一方で、そこには当然のことながら相手を「人」として感じる瞬間もあり、単純に憎むだけではない心の葛藤があることも感じられるのです。

作者のビヴァリー・ナイドゥーは、アパルトヘイト時代の南アフリカ連邦で生まれ育った白人の作家です。彼女の体験を通して生まれ出た物語は、強烈なリアリティを持って読者に迫ってきます。物語を読むことで現在も続く支配と暴力の構造に気づき、立ち向かうことができるか―—本書が問いかけてくることは重く、しかし目をそらしてはならないのです。(か)

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