クリーンヒット⚾ フィクション
『考えたことなかった』
魚住直子 著
西村ツチカ 絵
偕成社 刊
2022年10月 発行
定価1540円(税込)
166ページ
対象:小学校高学年から
ジェンダーバイアスとどこかつながる社会のしくみに気づきはじめる男の子の物語
中学2年生の颯太は夏休みの終わりに、家の近くの駐車場で言葉を話す猫に出合いました。その猫は自分を「未来のおまえだ」と言い、このままでは「みじめな最後」を迎えることになる、そうならないために未来から忠告に来たのだと言うのです。この猫は本当に未来から来たのでしょうか、そして未来の颯太はなぜ猫の言うように家族からも見放された孤独な最後を迎えることになっているのでしょうか?
颯太の父は単身赴任で、家族は小学6年生の妹とフルタイムで働く母との3人暮らし。野球部の練習や学校の勉強に加えて、家の仕事もこなさなくてはなりません。近所に住む祖父母の家に行くと、食事の支度から片づけまで何もかも祖母がやってくれて、それはそれで快適なのですが、家の中で威張って何もしない祖父にも違和感を覚えます。そして、部活では実力主義の名のもと競争を強いられ、レギュラーが危ぶまれる状況に……。そんな中、奇妙な猫との出合いをきっかけとして、颯太は「当たり前」とされることや、世の中の「思い込み」のおかしさに少しずつ気づいていくのです。
知らず知らずのうちに社会が当てはめてくる「男(女)はこうあるべし」という型に疑問を持つきっかけは、実は生活のあらゆるところに存在しています。「考えたこともなかった」ジェンダーバイアスに颯太が気づきを得る過程が物語として自然に描かれているので、読者はさらりと読みながらも「そういわれてみれば確かに……」と思い当たることが多々あるでしょう。大切なのはその気づきを行動に変えていくこと。未来からきた猫(これがいったい誰だったのかは、ぜひお話を読んで!)が教えてくれたことは、颯太自身の未来も良い方向に変えるチャンスをくれたのだ――そんな明るさを感じさせる作品です。(か)
颯太の妹が主人公となる前作の『いいたいことがあります!』もぜひ合わせてお読みください。
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