クリーンヒット フィクション
『あの日のあなた』
中川なをみ 作
大野八生 絵
くもん出版 刊
2024年6月 発行
156ページ
1650円(税込)
対象:小学校高学年から
「しーちゃん、今日でお別れやねん」
主人公のしずりは、養蚕がさかんな稲穂村に住む小学四年生。小さいときにはだれとでも仲よく遊んでいましたが、立派な家に生まれ育ったお嬢さまのしずりは、いつからか友だちからよそよそしい態度をとられるようになります。友だちの輪からも置いてきぼりにされたように感じ、教室でひとりで過ごしているしずりの心を変えたのは、ある少女との出会いでした。
少女は、メイという名の転校生。肩までのびた髪の毛はふぞろいで、着ているブラウスももんぺも、借り物みたいにぶかぶか。少女は生まれたときから家がなく、父とともに様々な県を旅する”旅のお方”。稲穂村では、村の乾燥場に住んでいます。乾燥場は、村に知り合いのいない”旅のお方”が泊まるためにあり、元々は馬や牛のえさとして刈りとった草を、冬のあいだに乾燥させて保管する場所でした。 それを知ったクラスメイトはメイから離れていきますが、しずりだけはちがいました。2人は、しーちゃん、メイちゃんと呼び合い、仲を深めます。 自分らしく堂々としていたいと思いながらも、常にまわりのことを気にしてしまうしずりを、メイは明るく励まします。メイの言葉に、しずりはいつも、ふわっとからだが軽くなるのでした。
親友のように距離を縮めた2人でしたが、受け入れがたい現実が待ち受けていました。メイは”旅のお方”。村を離れる日がやってきたのです--。
本作は、家族との交流も描かれています。子どもながらに家族を気遣うしずり。その振る舞いには、胸がズキンとすることも。
大野八生さんの挿絵も美しく、ある場面では草木の葉がすれ合う音が聞こえてくるようです。お見逃しなく。(み)
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