【たくさんのふしぎ40th】🤔(2017年9月号)
『アリになった数学者』
森田真生 文
脇阪克二 絵
福音館書店 刊
2018年10月5日 発行
1430円(税込)
48ページ

アリの世界にも、数学はある?

数字の「3」を見たことがありますか?それは、どんな色や形をしていたでしょう?
”「このあいだほんものの3を見てきたけど、思ったよりも小ぶりで青かった!」なんて話”は聞いたことがないですよね。3本のペンとか、3匹の羊ならあっても、「3そのもの」はどこにもありません。数学者は、このように「存在しないもの」について研究しています。からだや星とちがって、この宇宙のどこを探してもない、数や図形の世界を探究するのです。

数学のいいところは「国を越えて、人種を越えて、世界中の人と通じあう」こと。だれにとっても、3+4は7です。人間どうしであれば、だれにでも通じるけれど、この地上の生きもののほとんどは、人間ではありません。その人間ではない生きものたちに、はたして数学は通じるでしょうか? たとえば、人間より一億年以上もむかしから、この地上でくらしてきたアリに、数はわかるのでしょうか。

数学者が、アリの行進を見ながら「彼らにはどんな世界が見えるのだろう。ぼくが魅了されている数や図形を、彼女たちはいったいどんなふうに思うのだろう。」と考えていると、気づけば「アリ」に姿が変わっていました。

アリになった数学者は、広場で丸い大きな実を七つ見つけます。見つけた喜びを共有したいと思っていると、1匹の働きアリと出会いました。彼女は、それが「アスパラの実」だと教えてくれましたが、数学者が「ここには七つの実があるんです」と伝えても、「ナナツの実?聞いたことないわね。」と、数を理解してくれません。アリの日常は、数のない世界であり、数学の通じないくらしなのです。

しかし、翌日出会ったアリの言葉に、数学者は信じられない気持ちを抱くことになります。すらっとした背中に立派な翅がはえたアリは、こう言ったのです。「数はわたしたちにとって、とても大切よ。」とーー。その言葉の”真意”については、本書でお確かめください。アリの言葉に、あなたもきっと、心打たれることでしょう。

正直なところ、私は数学が得意ではありませんが、この1冊を読むと「大きな数学の宇宙の入口」に立って、その世界を深く知りたいと思えます。また、あたたかくなって目にする機会が増える「アリ」についても、言葉を通わせてみたくなるのです。哲学的なことを考えるのが好きだという方にも響く内容で、脇阪さんの描く絵の美しさも必見。月刊誌刊行から1年という早さでハードカバー化された本書をまだ読んだことのない方は、ぜひ手に取ってほしいと思います。(み)

✭2018年10月18日、教文館ナルニア国では森田真生さんと伊藤亜紗さん(『どもる体』(医学書院)の著者)をお招きして『アリになった数学者』刊行記念対談 を行いました。「からだをとおして考える 数とことば」と題したトークイベントの様子は福音館書店のHPからご覧いただけます。

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