ベスト 👍 フィクション
『木曜生まれの子どもたち』
ルーマー・ゴッデン 作
脇明子 訳
網中いずる 絵
岩波書店 刊
2025年1月 発行
上巻:968円/下巻:913円(税込)
上巻:340ページ/下巻:280ページ
対象:中学生以上

それぞれの困難にぶつかりながらダンサーを目指す姉・弟の十年間。

ロンドン郊外で八百屋兼花屋を営むペニー家。6人兄弟で紅一点のクリスタルは、元ダンサーだった母親の期待を一身に背負い、将来バレリーナとして大成することを自らも夢見ながら家の近くのバレエ教室に通っていました。一方、2歳年下でみそっかすの弟ドゥーンは、仕事で忙しい父親と姉に夢中の母親からほとんどかまわれることもなく、サーカスのアクロバット芸人だった使用人のベッポに育てられていました。ベッポがペニー家を去ったあと、誰にも面倒を見てもらえなくなったドゥーンはクリスタルのバレエ教室について行くことになるのですが、これが彼の運命を変えるバレエとの出合いとなるのです。

兄弟の中で唯一の娘で、容姿や踊りの才能にも恵まれたクリスタルは、周囲の人たち(特に母親)から甘やかされて育ったため、わがままで目立ちたがり屋、自尊心の強い少女になります。その性格が原因で教室の他の生徒とぶつかったり、競技会で審査員から手厳しい評価を受けたりしますが、彼女にとって何より屈辱的だったのは、眼中にもなかった弟がバレエについて天性の才能を持つ存在として彼女の前に度々立ちはだかることでした。弟に対する嫉妬や葛藤を乗り越えて、バレエを愛する一人のダンサーとしてクリスタルがどのように成長していくのかは、この物語の見どころの一つです。

一方で末っ子のドゥーンは母親の愛情の大半を姉に奪われ、父親や兄たちからはバレエを踊ることに理解を得られず、家族の中では孤立し、孤独を抱えた存在です。でも彼にはベッポをはじめ、バレエ教室のピアニスト・フェリクスさん、バレエ学校の教師たちなど、彼の才能と素質を高く評価し愛してくれる人たちがいました。何よりドゥーンは誰が何と言おうとバレエこそが自分の属する世界であることを心の奥底から確信していて、そのまっすぐな思いそのままに踊りに打ち込むことで、一家の期待の星である姉を軽々と越えていくのです。

この作品は主人公たちを取り巻く多くの登場人物が皆魅力的で、出会いのすべてがクリスタルとドゥーンの成長に影響を与えていることを感じます。子どもの読者の目から見れば二人の足を引っ張っているように映る両親でさえも、彼らなりのやり方で子どもたちを理解しようと努め、精いっぱいの愛情を注いでいることが大人にはわかるのです。親も一人の人間であって決して完璧な存在ではなく、迷ったり間違ったりしながら生きていること、そして子どもと共に成長していくことができるのだということをゴッデンの筆は語りかけてきます。(か)

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