ベスト👍  フィクション
『ジャングルジム』
岩瀬成子 作
網中いづる 絵
ゴブリン書房 刊
2022年12月 発行
定価1540円(税込)
144ページ
対象:小学校中学年から

<いま>を生きる<こども>と<おとな>、そして、すべての<家族>におくる物語。

表題作を含む5つの短編が収録された物語集。

定職につかず家も持たない叔父さんが見せてくれた“ここ”ではない世界のこと(「黄色いひらひら」)、お姉ちゃんの代わりにいじめっ子と勝負したときの気持ち(「ジャングルジム」)、離婚してパパに引き取られた一平に聞こえるぬいぐるみからの声(「リュック」)など、物語はどれも大きな声では語られない子どもたちの揺れる心の声を丁寧にすくい上げています。日常は映画や小説のようにドラマチックではないけれど、決して何も起こらないわけではありません。それどころか、小さな喜びや悲しみが寄せては返す波のように行き来し、その中で人はみな生きているのだということが、主人公の子どもの周りで起こる出来事を具体的に描くことでよりはっきりと見えてきます。子どもたちの置かれた状況は下手をすると感傷的な物語になってしまいそうですが、岩瀬さんの抑制のきいた文章は静かに読み手の心に共感を呼び起こし、自分の中の説明のつけられなかった思いに言葉を与えてくれるような気がします。

このように子ども(と大人)の日常と心の内を描ける作家が同時代にいるということに喜びを感じる作品集です。(か)

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