ベスト👍 ノンフィクション
『ことばの白地図を歩く 翻訳と魔法のあいだ』
シリーズ「あいだで考える」
奈倉有里 著
創元社 刊
2023年6月 発行
定価1540円(税込)
157ページ
対象:中学生から
国境線のない真っ白な地図を持って、ことばと翻訳の旅に出よう
ロシア文学の研究と翻訳をされている奈倉有里さんが、ことばの不思議と翻訳の魅力を語った1冊。タイトルも謎めいていますが、「翻訳と魔法のあいだ」という副題にいったいどんなことが書かれているのかワクワクしながらページをめくりました。
この本の導入である第1章は、語学学習者のための挫折しないためのポイント解説(?)といった印象です。翻訳文学は大好きですが語学習得にはあまり関心の高くない私は、「自分はどこへ連れていかれるのか?」と少し不安に思いながら読み進めていきました。ところが第2章に入っていくと、いよいよことばと深い繋がりのある“そのことばを使う人たちの暮らし”が見えはじめ、俄然おもしろくなってきます。第3章はことばからさらに“本”に発展していき、本読みとしては「へぇ~!」と驚いたり、「なるほど!」と感心したり、「そうそう!」とうなずいたり、ますます楽しさが増していきました。ここまでくると、段々この本の伝えたいことが私の中にじわじわとしみ込むように分かってきて、ことばの魔法使いである(この本の中では「詐欺師」とも呼んでいる・笑)翻訳者の心構えや姿勢に対して素直に畏敬の念が生まれてきます。これほどまでにことばに真摯に向かい合い、感性を研ぎ澄まして作品と読者を結ぼうとしてくれる存在(翻訳者)があるからこそ、日本語しかわからない私もあらゆる国の言語で書かれた文学を楽しむことができるのだと。翻訳者すごい、翻訳者バンザイ!
翻訳者・奈倉有里さんは、ロシア語と日本語のプロフェッショナルであるだけでなく、まずはことばとその向こうにあるものに対して卓越した好奇心を持つ人であり、そのことばとともに生きる人々に対してフラットで謙虚な姿勢を持つ人であることがわかります。本を閉じた後、次は奈倉有里さんが私たちのために描いてくれた地図を手にいろいろな本を読んでみたいと思いました。(か)
「翻訳とは、ことばを訳すだけではなく、ことばと読者の関係そのものを訳すことなのだ。」(第4章 扉のことばより)
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