ベスト👍 ノンフィクション
『そこにはいつも、音楽と言葉があった』
林田直樹 著
音楽之友社 刊
2023年1月31日 発行
定価2,530円(税込)
208ページ
対象:大人

クラシック音楽の本質に迫る

作曲家と演奏家が心から発したものが技を通し、空気中を響きとして伝わり聴き手に届く。聴き手の心の中で何かが生じて、はじめて音楽となる。それまでのプロセス全体を音楽と呼ぶのだと著者は言う。

著者はフリーの音楽ジャーナリスト。この本にはこれまでに著したコラム、エッセイ、インタビュー等の中から38本が選ばれ、収録されている。編集者として働いていた会社を辞し、フリーになるということは、後ろ盾は何も無くなり、拠って立つのは「事実」のみ。書いた文章のクオリティの結果がすべてという厳しさを受け入れるのはすがすがしいと言い切る潔さはいったいどこからくるのか驚くが、どの文章も知り得たことをたくさんの人に伝えたいという精神にあふれている。

自らが聴いたこと、観たことが書かれているので、読者はいつの間にか劇場のその席に、または取材現場の片隅に連れていかれる。それは、その音楽家のこと、音楽を知っているか否かは関係ない。音楽家へのインタビューは、クラシック音楽愛好家だけではなく、万人が共有できる質問を投げかけ、音楽家から普遍的な言葉を引き出している。

ある音楽家は“片足を現実の世界、片足を音楽の世界に置いて暮らすことができるのが芸術家であり、音楽で成り立っている世界は時間軸とは関係ない。永遠というものに近いのかもしれない”という旨を語っている。私はこの作曲家の音楽を知らないが、これは、文学・文芸、いえ、他の芸術にも通じること。そう思える言葉が、他の音楽家のインタビューの中でも光を放っている。

驚きや嬉しさを持って出会えた言葉を発した音楽家たちの音楽と、慌てずにゆっくりと出会っていきたいと思う。
音楽に素直に向き合い、自由に楽しみ、心にあたためたい。
百戦錬磨の音楽ジャーナリストが、それが音楽だと言っている。 (や)

 

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