クリーンヒット ⚾ フィクション
『カトーレンの王』
ヤン・テルラウ 作
西村由美 訳
にしざかひろみ 絵
小学館 刊
2024年11月 発行
1760円(税込)
344ページ
対象:小学校高学年から

王にふさわしいのは誰?

カトーレン国の王が死んだ夜、一人の男の子が生まれた。生まれて3日のうちに不慮の事故で両親を失ったこの子(スタッハ)は、王に仕えていた叔父に育てられることになる。
亡くなった王には後継者がいなかったため、6人の大臣が権力を握ることとなった。「新しい王を指名するために適切な方法を考え出す」と国民に約束したにも関わらず、その約束は果たされないまま大臣たちは権力の座に居座り続け、長い年月が過ぎていった。そしてスタッハが17歳になったある日、彼は大臣の一人に面会し、大胆にもこんな質問を投げかけた。「どうすれば、ぼくはカトーレンの王になれますか?」――この質問に6人の大臣たちの閣議は紛糾するが、数週間後“七つの任務を与える”ことに決定した。第1の任務は「デシベル市の鳥の金切り声を終わらせること」。政府も、大勢の学者も手に負えなかった問題を果たして17歳の少年が解決することができるのだろうか?

1971年にオランダで書かれ長く読み継がれてきた作品が初めて日本に紹介されました。作者は学者で政治家、そして作家としても活躍した人物です。物語は架空の王国を舞台に、昔話の形式(主人公が与えられた試練を克服してふさわしい地位を手に入れる)を用いて展開しますが、そこには作者の経験や思想が様々な形で盛り込まれています。それでも、押しつけがましい教訓話になっていないのは、スタッハの自分の力と未来を真っすぐに信じる性格に寄るところが大きいと思いました。

スタッハが次々に与えられる困難な任務を成し遂げられた大きな理由は、彼が思い込みを捨てて物事の本質を真っすぐに見る眼を持っていたことと、問題の渦中にいる人々に寄り添い、彼らの話を丁寧に聞く姿勢を持っていたことなどが挙げられます。それこそ国を治める政治家として必要な素質であることは、現実の世の中を見ても深く感じられるところでしょう。楽しい物語を通して社会や人間の理想の姿を描くことは、児童文学にだからこそできる希望だと読み終えて強く感じました。(か)

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