クリーンヒット ⚾ フィクション
『僕たちは星屑でできている』
マンジート・マン 作
長友恵子 訳
岩波書店 刊
2024年1月 発行
定価2420円(税込)
398ページ
対象:中学生以上

だれもが求めている。希望を持てる安全な居場所を。

イギリス南部の海辺の町ドーバーに住む16歳のナタリー(ナット)は、家族の要であった母親をガンで亡くします。その喪失は大きく、家族(父親、兄、ナタリー)の心はバラバラになってしまいました。彼女は悲しみと心に空いた穴を埋めようと、難民支援のプロジェクト「ドーバー海峡単独横断泳」に挑む決意をします。それは母親の遺志を継ぐ行為でもありました。
一方、アフリカの紅海に面した軍事独裁国家・エリトリアから一人の少年サミュエル(サミー)がイギリスを目指して厳しい旅をしていました。彼は反体制の発言をした父親を兵士に殺され、姉は行方不明、自らに送られてきた徴兵通知から逃れるためには難民となって命がけの危険な旅に出ざるを得なかったのです。飢えと渇きに苦しみながらほかの人々とともに砂漠を越えますが、地中海を小さなゴムボートで渡る途中で大切な親友を失ってしまいます。ようやくたどり着いたヨーロッパでも移民・難民を排斥する社会の圧力が彼を苦しめますが、そんな中で偶然の奇跡がナットとサミーを結び付け……。

ナットとサミー、それぞれのモノローグで綴られる詩形式の物語は、構成の素晴らしさもあって彼らの心の叫びがダイレクトに読者の胸を打ちます。二人の言葉が響き合い、独白が真のダイアローグに変わっていく過程は、辛さが勝る物語の中で希望が輝く場面です。この物語の結末をどう受け取るかは読者一人一人に任されていますが、読み終わった後も心がざわざわして二人のことを考え続けてしまうとしたら、それこそ作者が読者に望んだことかもしれません。ナットとサミーの絶望と希望に寄り添うことは、遠い国の見知らぬ人に起きた不条理を己の痛みとして体感することであり、すなわち身近にある同様の不正に気づいて私自身が声を上げる勇気を与えてくれるに違いありません。(か)

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