クリーンヒット⚾ フィクション
『かわいい子ランキング』
ブリジット・ヤング 作
三辺律子 訳
ほるぷ出版 刊
2022年8月 発行
定価1760円(税込)
386ページ
対象:小学校高学年以上

生徒たちに送られてきた、学校の「かわいい女の子ランキング」をめぐる騒動

本と詩が好きで学校では目立たない存在だったイブ。ある日、みんなのスマホに送られてきた「フォード中学校八年生かわいい子ランキング」で1位にランキングされたことから、彼女の周りは一変します。美人で成績優秀、陸上部のエースで男子にモテる、学校で一番人気のソフィーが2位だったことで、イブは「自分を1番にするため、自分でランキングを書いたのではないか」といういわれのない中傷を受け深く傷つきます。1位になった彼女は急に多くの人から注目を浴びる存在となったことにいたたまれない思いをする一方で、その順位にふさわしくない子だと思われることにも恐怖を覚えるのです。それぞれの立ち位置でこのランキングに戸惑いや怒りを覚えていたイブ、ソフィー、ネッサ(イブの親友)の3人は、金持ちで女子の憧れだが性格の悪いブロディが犯人ではないかとにらみ、証拠をつかもうと動き出しました……。

自分の望まない形で無理やり表舞台に引きずり出されたイブが、今まで“だれ”でもなかった自分が急に“だれか”になったことで受ける称賛と誹謗中傷に苦しむ姿に心が痛みます。同時にいつも取り巻き囲まれて、目立つ子の頂点にいるソフィーが、「下に見られないように」と常に学校という戦場で一番を狙う複雑な事情も徐々に見えてきて、決して人は見た目通りではないことを気づかせてくれます。演劇に夢中でしっかりと自分の世界を持っているように見えたネッサでさえ、このランキングに自分が入っていないことにまったく動じないでいられるわけではないことから、いかにルッキズム(外見至上主義)が私たちを強く心理的に拘束しているかも感じられました。個性や自然な自分が大事と建前では言われても、実際には誰か(社会)が「良い」とする基準が本当に自分らしくいることを妨げてはいないかーーそんなことを考えてしまいます。

女の子たちを傷つけた心無い「かわいい子ランキング」でしたが、結果的には一人一人の心の中に様々な気づきを与えました。それは男の子たちにとっても例外ではありません。くだらない意見に心をかき乱された時間がフォード中学校八年生の子どもたちの新しい成長へとつながっていった結末は、読者にさわやかな感動を与えます。様々な問題提起を含んでいる作品ですが、同じような悩みや疑問を抱えるYA世代にぜひ読んでほしい本です。(か)

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