クリーンヒット⚾ フィクション
『うそつき王国とジェルソミーノ』
ジャンニ・ロダーリ 著
山田香苗 訳
講談社 刊
2022年11月 発行
定価924円(税込)
213ページ
対象:中学生から
大切なものを問う、シュールな傑作長編
1985年に安藤美紀夫訳『うそつき国のジェルソミーノ』として刊行されたロダーリの長編作品が、版元を変えて新訳で出版されました。
ジェルソミーノはとてつもない大声の持ち主で、その声が災いとなり、生まれた家を出ていかなくてはならなくなります。そうしてやってきたのが「うそつきの国」でした。ここでは元海賊の国王・ジャコモーネ一世が嘘を義務付ける法律を作ったため、本当のことを言ってはならず(例:“海賊”は“紳士”と言い換えられます)、犬はミャーと鳴き、猫はワンと吠える――何もかもさかさまの大混乱状態になっています。そんな国でジェルソミーノはもともと壁の落書きだった3本足の猫ゾッピーノとともに、真実にまつわる様々な騒動を引き起こしながら人々と王国を解放していくのです。
うそつき王国の住人はオレンジのかつらをかぶったジャコモーネ国王や、描く絵が本物になってしまう画家のバナニート、座ると急速に年を取ってしまうのでいつも立っているベンヴェヌートなど個性的な人たちばかりです。けれどもユーモアたっぷりの奇想天外な物語の中に、ハッとする真実がこめられていることに大人の読者は気づくことでしょう。「本当のことを言うと逮捕されるか、精神病院に入れられる国」はお話の中だけに存在するのでしょうか? 心優しいジェルソミーノがその素晴らしい歌声でうそつき王国を滅ぼしたことに喝采を送りつつ、大人はこの楽しい物語に作者が込めた思いをいまこそしっかり受け止めなければならないと感じます。(か)
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