クリーンヒットフィクション
『闇に願いを』
クリスティーナ・スーントーンヴァット 作
こだまともこ・辻村万実 訳
静山社 刊
2024年3月 発行
1980円(税込)
419ページ
対象:小学校高学年以上
この川の向こうには、あの光の下には、自由があると信じていた。
タイに似た架空の街チャッタナー。その昔、魔法で大きく栄えた街は人間たちの欲望によって拡大し、その挙句大火によって消失した。人々が苦難に喘ぎ、再び魔法の復活を望む中で現れた一人の男が不思議な光の力でチャッタナーをよみがえらせ、今は総督として君臨していた。火を使うことを禁止された街は総統が作り出す光(エネルギー)によって支配され、西側は豊かな人々が、東側は貧しい人々が住む地域として分断されており、法と秩序が見えない力で厳格に人々を縛り付けていた。
窃盗の罪で服役していた母親から生まれた9歳の孤児ポン。彼は“刑務所で生まれた”というだけで13歳になるまでそこを出ることができない。それでも彼は鉄格子の向こうで輝くチャッタナーの街に希望を見出していた。ところがある日、刑務所を視察に訪れた総督にかけられた「闇に生まれた者は、かならず闇に帰る」という言葉に希望を打ち砕かれたポンは、同じく孤児で親友のソルキットを置いて1人で脱獄を決行する。街から遠く離れた山奥の寺院に逃げ込んだポンは、人生の師となる老僧チャムと出会い、わずかに平穏な時を過ごすのだが、そこへ偶然逃げ出した刑務所の元所長の一家がやってきて……。
物語の展開はスピーディでポンが次々に見舞われる試練からは目が離せません。親友のソルキットや、敵役となる刑務所長の娘トック、老僧チャム師、チャッタナーの街の貧民街のリーダー・アムパイなど、登場人物も個性が際立ち大変魅力的です。正義とは何かや格差の問題、世の中を変えるために連帯し立ち上がる人々、刑務所出身者への差別など、ファンタジーの設定を借りた物語ながら、描かれた内容は現代に通じるものです。チャム師が生涯悔いていたこととは何だったのか、そしてポンに残した言葉(「おまえの探しものがみつかるように」)の意味が理解できた時、思い通りにならない人生をそれでも諦めずに生きる勇気が、己の深いところから湧き上がってくるのを感じます。(か)
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