クリーンヒット⚾ ノンフィクション
『根っからの悪人っているの? 被害と加害のあいだ』
坂上香 著
創元社 刊
2023年10月 発行
1760円(税込)
190ページ
対象:10代以上、すべての人に

どうしたら、被害も加害もなくすことができるのか?

劇場公開ドキュメンタリー映画として初めて日本の刑務所を撮影した「プリズン・サークル」の監督・坂上香さんが、中学3年生~大学1年生までの4人の若者と犯罪の被害・加害について語り合った記録。映画にも参加した元受刑者や被害者との対話を通じて、タイトルの問いについて考えていきます。

まず映画「プリズン・サークル」を見て初めての対話に臨んだ若者たちは、なぜ彼らが犯罪行為に至ったのか、自分たちと彼らの違いはどこにあったのかを“言葉”にして考えていきます。このように「わからないこと(相手)をわかりたいと思うこと」から始まり、たとえわからなくて、認められなくてもまずは拒否や排除の姿勢ではなく「違いに出会う場をつくること」が大切なのではないかと対話が進んでいく様子からは、完全ではなくても言葉によって互いを理解していこうという「社会を構成する者として必要な姿勢」を見せられた気がしました。そののち4人の若者は、映画に参加し今は社会復帰を果たした元受刑者から、犯罪にどのような背景があったのかや、自身の生育環境、刑務所での生活や更生プログラムを通した気づきなどを直接聞き、そこでも対話を重ねることで「根っからの悪人はいるのか?」という問いのそれぞれの答えに、少しずつ近づいていきます。

犯罪自体は許される行為ではありません。しかし元受刑者と向き合った若者たちは、犯罪者という括りではなく人間同士として語り合うことで、罪を犯した人の中にも自分と同じような心の動きがあり、別世界のモンスターではないことを理解していきます。こうした少しずつの共感が社会的包摂につながり、もう一度やり直すことができる社会を作っていくのではないかーー罪を償うことの難しさを感じる一方で、それでも第三者としてできることは、無知による排除に加担しないこと、そもそもの犯罪を生んだ社会の問題点に目を向けること、そして理解できない異なる他者と対話を続ける胆力を持つことだと感じました。(か)

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