児童文学研究者で翻訳家の猪熊葉子さんが11月19日に亡くなられました。私たちも岩波書店のSNSでこのことを知って、とても悲しく思っています。
猪熊先生とナルニア国のご縁は、サトクリフのフェアを行った2005年と『大人に贈る子どもの文学』出版記念の2016年、ご講演をいただいたことが記憶に残っています。何より、大好きなイギリスの作品（サトクリフ、エイキン、ピアス、ゴッデンなど）に出会うことができたのは、猪熊先生のおかげです。これらの作品は今では多くが古典の部類に入ると思いますが、現代の作家にはない静謐な深みがどの作品にも感じられます。あくまでも子ども（YA世代も含む）に向けて書かれた作品で、少年少女の心のひだを見事に描き切った物語は、大人になって再読しても十分な読み応えがあり、子どものころには気がつかなかった細部の巧みさに思わずうなってしまうものばかり。それは猪熊先生の翻訳者としての言葉選びが的確で、作品の本質をつかみ取る技（心と言えるのかも）が並外れていらしたからだと思います。とにかく、すべては子どもだけに読ませているのはもったいない内容の本ばかりなのです。
残念ながらサトクリフの少年文庫は品切れになっているものもあります。皆さんの力でぜひ復刊を岩波書店に呼びかけましょう！ 困難に立ち向かう主人公に自らを重ね合わせて、現実の世界を生き延びるよすがにしてほしい――猪熊先生が手がけられた作品はどれも、力強く子どもたちの未来を応援していると思います。
★大人の方にぜひおすすめ！★
『大人に贈る子どもの文学』猪熊葉子 著／岩波書店 2310円（税込）
児童文学の名作✨ すべて猪熊葉子訳
『第九軍団のワシ』ローズマリ・サトクリフ作／岩波少年文庫 1034円（税込）
『まぼろしの小さい犬』フィリパ・ピアス作／岩波少年文庫 913円（税込）
『しずくの首飾り』ジョーン・エイキン作／岩波少年文庫 792円（税込）
『台所のマリアさま』ルーマー・ゴッデン作／評論社 1870円（税込）
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