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『対談集 あなたが子どもだったころ[完全版]』
河合隼雄 著
中央公論新社 刊
2024年7月 発行
436ページ
1210円(税込)
対象:大人

本書を開けば、誰もが子どもにも、大人にもなれる。語り手にも、聴き手にもなれる。

本書は『飛ぶ教室』第13号より22号までに「あなたが子どもだったころ」という題で連載したインタビューをまとめたもので、インタビュアーは、著者である河合隼雄さん。16名の対談相手のなかには、哲学者である鶴見俊輔さんや、作家の田辺聖子さん、詩人の谷川俊太郎さんがおられ、すべて河合さんご自身が選ばれた方々です。河合さんによれば、時に「先生、そんなこと公表されてもいいのですか」とお尋ねしようかと思うような「秘密」の話もあったそう。印象的だったのは、そのような「秘密」のなかには、「暗い」「重い」といった形容詞が似合いそうなものも多くあったという言葉でした。しかし、それが御本人の口から出てくるときには、重くも暗くもなく、むしろ、ある種のさわやかさえ感じさせたといいます。それは、なぜなのかーー。気になる方は、河合さんの考察をお確かめください。

対談を読み進めるなかで、とりわけ心に響いたのは、動物行動学者の日高敏隆さんと建築家の安藤忠雄さんのお話でした。 日高敏隆さんは、子どもの頃、あるとくべつな経験をします。それは、小学4年生のときのこと。軍国校長に反抗して、断固学校に行かなくなった日高さんは、自殺に追いこまれそうになりました。しかし、ある人物によって、閉ざされかけた道は再び開きます。日高さんの突破口とは、何だったのでしょうか。 ここで語られていることは、学校教育や親のことで、その内容に時代は関係ありません。同じような状況に陥ったとき「日本のほとんどの親がとる態度」「本当の教育者」「現代におけるよい学校」とは何かについて、河合さんと日高さんが交わされる言葉の数々には、考えさせられます。

安藤忠雄さんとの対談では、あるキーワードが頻出します。それは「コドモ力」。安藤さんは、これを「子どもの時代」に鍛える必要があると主張します。 自身の子どもの頃を振り返り、放課後に塾へ行く子がいなかったことを例にあげ、あることが理由で、早くから「コドモ力」を衰退させられていることを嘆きます。そんな彼の子ども時代はというと「成績は悪いけれど、魚捕りやトンボ捕りがうまい子ども」だったそう。安藤さんとの対談を振り返った河合さんは「あなたが子どもだったころ」よりも「われわれが大人として」今の子どもたちに何ができるか、「大人としてどう生きるか」のほうに話がゆきがちになったと話しています。「コドモ力」については、子どもにかかわるすべての大人に読んでほしいです。

巻末では、小川洋子さんの解説「記憶が物語になる時」も掲載されています。小川さんによれば「大人になって行き詰った時、見据えなければならないのは、過去の子ども時代」だといいます。何か思い悩むことがあったときは、過去の自分にたずねれば、おのずから答えは見つかるかもしれない、そう思える1冊でした。(み)

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