ベスト👍 昔話
『くよくよしても しかたがない!』
ワンダ・ガアグ 再話・絵
小宮由 訳
瑞雲舎 刊
2024年7月 発行
1650円(税込)
62ページ
対象:幼児から

アメリカ絵本黄金期の画家ワンダ・ガアグのゆかいな昔話

あるところに、フリッツルというお百姓がいた。フリッツルにはリアシというおくさんと、キンドリという小さい娘がいた。
ある日、朝から晩まで炎天下で畑仕事をして疲れて帰ってきたフリッツルは、リアシに「おめぇさんのしごとなんざぁ、らくなもんよ」と言い放つ。そして翌日、二人は仕事をとりかえることになった。「家の周りを、のらりくらりとしているようなもの」と思っていたリアシの仕事を、フリッツルは思ったようにちょちょいとこなせたのか? それは読んでのおたのしみ!

アメリカの絵本黄金期を代表する画家ワンダ・ガアグはボヘミアからの移民の子孫で、幼いころからグリムを中心にたくさんの昔話を聞いて育ったそうです。自身の血肉になっていたであろう昔話の中でも、このお話は特別なものだったのではないか―—そんな想像がされるほどに語り口、イラストともに抜群のおもしろさがあります。物語のどの場面を絵にするかといった選択も的確ですし、時間の流れにそってつながるイラストはアニメーションを見ているような動きを感じさせます。フリッツルが家の仕事をめちゃめちゃにしてしまうとんでもない展開も、からっと明るく教訓じみたところは一切感じられません。なにより、フリッツルの失敗するたびに「やれやれ、おきちまったことだ。くよくよしても、しかたがねぇ」と言うセリフが、気持ちのよい笑いを誘うのです。

昔話に対する風当たりが強い昨今ですが、ガアグ自身の昔話体験から生まれた本作は、世知辛い世の中の風潮を弾き飛ばすかのような爽快感に満ちています。人が生きるためにはお話が必要なんだ!というシンプルな事実を、この愉快な昔話を読んで楽しむ中でたくさんの子どもたち(大人も!)が感じ取ってくれたら嬉しいです。(か)

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