ベスト復刊👍 フィクション
『おもちゃ屋のクィロー』
ジェームズ・サーバー 作
上條由美子 訳
飯野和好 絵
福音館書店 刊
1996年 発行/2024年4月復刊
1760円(税込)
80ページ
対象:小学校低学年から

町を襲う大男を退治する、現代のおとぎ話。

「むかし、あるとおくの国に、ハンダーという大男がいました。」と始まる本書は、昔話の形式を踏襲しつつも作者独特のユーモアと風刺が冴え、幼い子どもから大人まで様々な年代が楽しめる作品となっています。

大男のハンダーは町々で略奪を繰り返しながら、男が100人、女が100人、子どもが100人だけの小さな緑の谷間の町へやって来ました。来るなりハンダーは町の人たちに、町の財産をすべて使い切ってしまうようなとんでもない要求を突きつけます。どんなに武器でも止められないハンダーの横暴を前に、肉屋もアメ屋も仕立屋もくつ屋もパン屋も大工もかぎ屋もろうそく屋も、なすすべがありませんでした。ところがこの町にたった一人だけ、ハンダーに挑戦しようという人がいました。それが町中でいちばんのチビで、素晴らしいおもちゃを作る、ひょうきんでやさしいおもちゃ屋のクィローだったのです。クィローは「まい日、ひとつ、はなしをかたってもらうことにする」というハンダーに応えて語り手となる一方で、小さな青い人形を作りはじめます。一体クィローは何を考えているのでしょうか……。

大男の圧倒的な力の前に恐れおののくばかりだった町の人たちの中で、一番非力とも思える存在(クィロー)が知恵を使って見事にハンダーをやりこめる様は痛快です。劇作家やジャーナリストの顔を持つ作者は、お話の中にある“抵抗”の方法を描き出していますが、そこには「物語の力」や「非暴力」といった現実の世界でも重要な要素が含まれていることを、大人の読者は感じることでしょう。そしてなにより、危機に立ち向かうクィローの明朗快活で誠実な優しさが物語全体を力強く支えていることが、この短いお話の最大の魅力なのです。(か)

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