ベスト👍 ノンフィクション
『本屋で待つ』
佐藤友則 島田潤一郎 著
夏葉社 刊
2022年12月25日 発行
定価1,760円(税込)
208ページ
対象:大人

本のある場所から生まれたもの

2023年がスタートを切って1週間で早くも今年のマイベストと呼べる1冊に出会った。
本書は広島県庄原市の山間にある本屋「ウィー東城店」の再起を綴ったノンフィクションである。「ウィー東城店」は本以外にもエステルームと美容室、コインランドリーを併設し、壊れた電気機器の修理の相談や年賀状印刷まで請け負うという町の人々の暮らしに根差した複合的な本屋だ。

筆者の佐藤友則さんは明治22年に曽祖父が開店した「佐藤商店」の支店「ウィー東城店」を任されることになるのだが、その日々が読者にとっては驚きと胸打つ話の連続である。学生時代はパチンコとタバコに溺れる日々だったそうなのだけれど、移動中やパチンコ屋がオープンするまでの待ち時間に司馬遼太郎の小説に夢中になっていたというのは、やはり読書という行為が日常にとけ込んでいたからだと頷ける。
店長として継ぐことになった時、店は赤字、地元での評判は悪く従業員との間に軋轢も生じていたというのだから黒字に転じさせるのは言葉以上に難儀したことだろう。その驚くべき方法が先に述べたエステルームや美容室、ひいてはコインランドリーをも併設したユニークな店のあり方である。こうした発想の転換にはご自身の豊かな想像力と現状を冷静に分析する力に加え、困っている人の助けになりたいという純粋な寄り添いがある。

それは「ウィー東城店」に勤める人たちにも共通していることで、不思議とアルバイトとして入ってくる子たちは学校に通えなくなった子どもなのだ。彼らがレジで会計をしたり棚を持ったりすることで社会の中に確かな居場所を見つけて自ら関わりを深めていく姿は同じ書店員として肩入れしてしまうこととはまったく別次元で強く心を揺さぶるし、”働く” あるいは ”熱中できるものを持つ” 人であれば誰しもが思い当たるお金を得ること以上の幸福について考えさせられる。そして、そこにも、彼らを見守る佐藤さんの精神の佇まいのようなものが感じられる。
この本は、ありふれたサクセスストーリーではないのだ。

佐藤さんが人生で3人の師匠に出会ったように、私にも師と目した人がいる。以前の職場にいたその人は簡単に「できない」と言わない職人気質で、できない理由を10挙げる暇があればどうやったらできるのかをひとつでも考える人だった。その人と組んでする仕事はただただおもしろく、私たちの日々は無限の可能性の中にあった。その人とは、当時年若かった私からしたら自分の父親ほどにも年の離れたオジサンだった。

「本屋で待つ」。そう、私たちは待っている。本屋を訪れる人が探し求めている本と出会う瞬間を。ともに働く仲間の顔が生き生きと輝く時を。そして小さな可能性が本屋の未来を変える日を。 (い)

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