クリーンヒット⚾ 『ロドリゴ・ラウバインと従者クニルプス』
ミヒャエル・エンデ/ヴィーラント・フロイント 作
junaida 絵
木本栄 訳
小学館 刊
2022年7月 発行
定価2090円(税込)
348ページ
対象:小学校高学年以上

よみがえるエンデの世界――こわいのも知らずの少年とこわがり屋の盗賊騎士が再び動き出す!

時は中世、嵐の森を抜けて走る一台の馬車から少年が一人いなくなった。名前はクニルプスーー森の奥の城砦に隠れ住む、悪名高い盗賊騎士ロドリゴ・ラウバインの従者になろうと、両親の馬車を抜け出したのだ。恐れを知らない未熟者クニルプスは、大人になるには善悪の区別がつかなければならないと聞き、悪の大先輩であるロドリゴ・ラウバインを訪ねることにしたのだ。ところが実はこの騎士、世間の噂とは異なり虫も殺さぬ優しい心の持ち主だったのである。恐ろしい評判の数々は、世間を欺いて一人静かに暮らすために彼自身がばらまいたものだった。

『モモ』や『はてしない物語』などの作品を生み出したミヒャエル・エンデが3章までを書いたきり完成させることなく世を去った物語の断片を20数年後に完成させたのは、児童文学作家でジャーナリストのヴィーラント・フロイントです。エンデは作品に深い意味を込める作家でしたが、物語が未完になってしまった理由について「この物語で重要なテーマとなっている「悪」や「おそれ」について納得のいく理念(イデー)を見出す時間がなかったのだろう」と、長年の親しい友人の編集者が述べています。エンデの未完の作品の後を継いで物語を書くというのは途方もない重圧であったと思いますが、残された断片を見事に活かして物語に深い理念も与えた作者の手腕に敬意を表します。エンデは作品の根底にはっきりした理念を持つゆえに大人の読者は苦手とする人もいるようですが、逆に本書では「この作品は何が伝えたいのか」を深読みしていくおもしろさがあります。登場人物はみな人形芝居の人形のように型通りの性格のため、かえってくっきりと物語の理念が浮かび上がってくるのです。

装丁も美しく、ところどころに入った線画の挿絵は、登場人物たちの姿(顔)を具体的に描かないことで、物語世界と読者の距離を縮めてくれます。年齢の低い人は出来事のおもしろさだけでも十分楽しめますし、大人は秘められた理念を探り当てる少し深い読書を意識的にすることで、別の楽しみが見いだせることでしょう。(か)

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